熱絶縁工事の技術を惜しみなく発揮し
南相馬市の復興を後押しする
熱絶縁工事業1級熱絶縁施工技能士 第19号
【足跡】 福島県出身。ものづくりへの興味が強く、学業修了後に熱絶縁工事を手がける会社に就職。そこで30年間経験を積み、その卓越した技術力を基盤として2010年に独立を果たした。
南相馬市を拠点に熱絶縁工事業を展開している『タイセイ保温』。一般住宅の水道管工事をはじめ、石油プラントや化学プラント、火力発電所など、大規模な現場にも対応している。特に現在は昨年発生した東日本大震災で甚大な被害を負った火力発電所の復旧工事に当たっている。被災地で活躍する同社の大滝社長のもとを、俳優の加納竜氏が訪れてお話を伺った。
加納 大滝社長が現在のお仕事に就かれるまでの経緯からお聞かせ下さい。
大滝 学業修了後は、工場への就職が決まっていたのですが、流れ作業ではなくじっくりとものづくりに取りかかる仕事がしたいと思い、進路を変更して給水管の保温工事を行う会社へ就職したのです。そのころから確かな技術を身に付けていずれ独立を、と心に決めていました。
加納 独立されたのはいつごろですか。
大滝 2010年の2月です。景気が悪い時期だったこともあり、妻からは最初反対されていました。けれど以前から独立の意志を伝えておりましたので、「これが最後のチャンスかもしれない」と最後は背中を押してくれました。
加納 奥様の後押しは心強かったことでしょう。では、勤務時代の経験を生かした事業展開を行っておられるので?
大滝 ええ。端的に説明すると水道管の凍結によって水が出なくなるのを防ぐために、保温用のスチールカバーを取り付けるといった工事を手がけています。一般住宅への施工も行いますが、工場やプラントなどの現場がメインです。同じ保温工事でも、化学プラントや石油プラントなど、施工する現場は様々ですね。そして現在は昨年の大震災で大きな被害を受けた火力発電所の補修工事を担っているのですよ。
加納 確か福島県の火力発電所も津波の大きな被害を受けましたよね。
大滝 ええ。原子力発電所の爆発事故の陰に隠れてあまり報じられていませんが、沿岸部にある原町火力発電所の津波被害は甚大でした。10メートル以上の津波に襲われ、重軽油タンクの損壊、機械設備の冠水、屋外建屋の損傷・流出など壊滅的な被害を受けたのです。あまりにも損壊が甚大だったため、再開は不可能と言われたほどだったのですよ。
加納 それほどの被害だったとは……。
大滝 特に原町火力発電所は福島県だけでなく東北地方にも電力を供給する主力発電施設なのです。その発電所が再開できなければ、エネルギー不足にも拍車をかけることに……。今後について議論が重ねられた結果、今年に入ってようやく正式に復旧が決定しました。今年度中の運転再開へ向けて補修工事を行っているところなんです。
加納 震災復興にも直結する意義のある現場に携わっておられるのですね。
大滝 これまで原子力発電所の恩恵を受けていただけに、地元の我々にとって今回の原発事故は非常に複雑なものでした。けれど、未だに放射線の影響が強い現状を鑑みると、やはり原子力発電所はもう動かしてほしくない。原発以外の方法でエネルギーを供給してほしいという想いもあって、できるだけ早く火力発電所が稼働できるよう、急ピッチで工事を進めています。
加納 被災地では職人不足によって復旧工事もままならないと聞いたことがあるのですが……。
大滝 確かに地元の職人は不足していますが、こうした復旧工事には九州や大阪など全国から職人が集まってくれているんですよ。最近になって地元に戻って来る方も増えてきているものの、まだほとんどの方が避難している状態ですね。
加納 確かに、こちらへ車で移動する途中で放射線量の計測数値を見たところ、場所によってはほかより数値が上がっているようでした。
大滝 そうなんです。もちろん、危険な場所は立入禁止区域のままですし、それ以外の場所は普段生活する上では健康被害がないと言われています。ただ、放射線測定器は常に持ち歩いているんです。市からも無料で配布されていますし、市民の間では必需品となっています。
加納 そうした被災地の生々しい声を聞くと、一刻も早く除染が進むことを願ってやみません。それだけに、現地で復旧に向けて取り組んでおられる社長には、ぜひ頑張っていただきたいものです。
大滝 もちろん、仕事を通じて地域に貢献していく所存です。普段の業務についてもそうですが、当社は決して大きな会社ではない中、仕事を任せて下さっていることがありがたく、その期待に応えたいという想いは強いですね。
加納 最後に、今後の展望についてお聞かせ下さい。
大滝 当社は従業員数3名と規模が小さく、当社だけではこなせない工事がまだまだあります。それが今は一番もどかしく感じており、いずれは一貫して工事を引き受けられるよう、会社の規模を大きくしたい。それが目下の課題ですね。そして、先ほどもお話があったように、地元の火力発電所の復旧を実現し、町の復興に寄与できればと思っています。
加納 陰ながら応援しています。本日はありがとうございました。
Column
震災から一年以上が経った今もなお4万人近い住民が避難生活を強いられている福島県南相馬市。特に原発事故による放射線の影響は深刻だ。高い放射線量が測定されている地域では、中に立ち入ることができず、倒壊した家屋の残骸が道路にはみ出したままだという。今年4月に立ち入りを厳しく制限する警戒区域や計画的避難区域が見直され、ようやく自宅へ出入りできるようになったものの、上下水道などインフラ復旧がままならず、放射性物質の除染やがれきの撤去が手つかずの地域もあり、厳しさは依然変わらない。
市内で熱絶縁工事業を手がける大滝社長の家族も、今は県外に避難している状態だという。常に持ち歩いている放射線測定器が、一定の数量以上を感知して警告音が鳴ることもあるとか。そんな不安な生活を続けている中でも、社長は地元で日々の業務に邁進する。そうした現場には、社長と同じように、復興に向かって汗を流す職人たちが揃う。その活躍によって一つずつプラントが通常稼働し、地域に活気が戻るはずだ──。
「ライフラインやプラントの基幹を維持する重要なお仕事を手がけておられる大滝社長。『それだけにやり甲斐も大きい』と話して下さいました。長年にわたって現場で経験を積んできた社長だけに、その技術力は高く、数多くのプラントを手がけてきた実績からも周囲から篤い信頼を寄せられていることが窺えます。穏やかな口調からは、いわゆる職人気質の雰囲気は感じなかったのですが、技術に対するこだわりには、職人ならではの魂を感じましたね」(加納 竜さん・談)
名 称 |
タイセイ保温 株式会社 |
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住 所 |
福島県南相馬市原町区北原字岩見堀子1-5 |
代表者名 |
代表取締役 大滝 郁夫 |
掲載誌 |
トップフォーラム 2012年9月号 |
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