お墓は、心と心をつなぐ場所──
故人への慈しみを持ち寄り、語り合う
そんなお墓の在り方を一緒に考えたい
「お墓を建てることは、家族の絆をつなぐということなのです」
価値観の多様化や家族の在り方の変化により、先祖代々墓を受け継ぎ、守っていくという感覚さえ希薄となっている現代だが、誰しも亡くなった後も残された遺族に自分の存在を忘れてはほしくないと思っている。
供養する心がそこに存在することが何より大切だと考えるのが坂川専務だ。
墓参りは、故人や親族と心を通わす機会であり、墓地はそのための場所だと捉え、墓の存在意義や、墓が本来持っている意味を伝えるべく啓蒙活動に勤しむ。
お墓を建てることは、家族の絆をつなぐことである──
専務は、その信念を軸に墓石プロデューサーとして歩み始めたばかりだ。
【足跡】 福井県出身。『坂美石工所』の跡取りとして生まれる。学生時代からテニス選手として活躍し、社会人となってからも7年間に亘って県内トップの座を守った実力派だ。その後、家業に入るが、旧態依然とした業界の在り方に疑問を抱き、業界を飛び出して、お客様との接し方やお墓本来の在り方を啓蒙する営業トークを勉強。父が体調を崩したのを機に再び家業に戻り、業界の慣習にとらわれない独自のお客様目線のスタイルで新たな墓石業を追求している。
お客様と共にお墓について考えたい──『坂美石工所』は、お墓の大切さを啓蒙する地域に密着した石材店だ。製造から販売、施工、アフターフォローまでを行うシステムを構築した「全国優良石材店の会」の認定店であり、石材店としてお客様と共にお墓を守ってきた。本日は、坂川専務に大沢逸美さんがインタビュー。
大沢 早速ですが、『坂美石工所』さんについて、お聞かせ下さい。
坂川 『坂美石工所』は1965年に父が創業した石材店ですが、曾祖父や祖父の時代から菩提寺に当たるお寺に日蓮上人の石像を納めさせていただいていたと聞いています。当初は石垣積を主な仕事とし、その後、護岸ブロック工事を手掛けることで会社を軌道に。やがて墓石の取扱いを始め、石選びからデザイン、施工に至るまでを請け負うようになり、今は墓石を専門としています。
大沢 最近のお墓事情については、いかがですか。
坂川 人々と菩提寺との関係が希薄になり、需要は下降気味です。しかし一方で、宗教・宗派に重きを置いていなくても、先祖や家族を大切にする気持ちは強くなっているように感じます。『読売新聞社』の調査によると、75%に上る人が「宗教は信じない」と答えながら、一方で「亡き人を敬う気持ちはある(94%)」「家族の絆を大切にしたい」と答えたという興味深い結果が出ているんです。お墓に対する価値観は十人十色であり、たとえば都会ではマンション墓地と呼ばれるものもある。一家族にお墓が一つという人もあれば、後々のことを考え、いくつかの親族・家族をご一緒にというケースもあります。そうして希望される形は様々ではあっても、供養する心がそこに存在することが何より大切なのではないかと、私共では考えています。
大沢 お墓は、故人を慈しむ心を形にしたものだとお考えなのですね。
坂川 はい。もっと言えば、墓所は、故人と、そしてつながりのある者同士がコミュニケーションを取る場だと考えています。互いの近況を報告し合い、元気な顔を見せ合える場となれればと願いながら、墓石づくりと向き合っているのです。
大沢 確かに、墓参りは親族と顔を合わす貴重な機会です。専務はお若いながら独自のお考えを確立されているようですが、早くから家業のために勉強をなさっていたのですか。
坂川 いえ、父を見てこの仕事の厳しさはよく知っていましたので、もともとは継ぐ気がありませんでした。それで、学生時代からテニスをしていたので、大学卒業後はテニスクラブでコーチのアルバイトを。しかし、そちらが社員の採用を予定しておらず、家業へ入ることにしたのです。そんな入り方をした家業でしたが、入ってみると社員の接客力不足や旧態依然とした業界の在り方に疑問を持ちましてね。一時、石材業界を飛び出して、お客様との接し方やお墓の大切さを啓蒙するための営業トークを会得しようと勉強していたところ、2年ほど経ったころに父が病に倒れ、家業に戻ることになったのです。その際に、私が出した条件は一つ──この業界を変えるためにも私の好きにさせてもらうということでした。旧態依然とした業界を変えたいという強い気持ちを前面に出し、石材業にサービス業の側面を採り入れ、接客も強化してきたのです。
大沢 周囲から強い反発があったのでは?
坂川 それは、もう(笑)。結果的に辞めていただいた職人さんもいますし、周囲からの反発も強かったですね。でも、そうまでしてでも変える必要があると考えました。価格競争が苛烈を極める中、お墓が本来持つ意味やお墓の在り方を伝える石材店でありたいと考え、そうしたことを大切にされている各地の業者さんを訪ねたり、『全優石(全国優良石材店の会)』という業界団体の勉強会にも積極的に参加し、その後、品質・技術・アフターサービスが第一級とみなされ、『全優石』の認定を取得。私が切り盛りするようになって3年目に入りましたが、ようやく手応えを感じるようになりました。
大沢 具体的にはどのような取り組みを?
坂川 まず、価格競争には参加しません。もちろん、価格は購入時の大切な要素ですが、価格が全てではないというスタンスを採っています。そして、お客様の対話を通して、お客様がお墓を建てようと考えられたそのお心を伺い、宗旨によって決まった正しいお墓の建て方やデザインなど様々な選択肢があることをご説明し、お客様が納得してお墓を建てられるよう導きます。お墓への疑問や心配を解消したいので、ミニチュアをご覧いただくなどして立体的なイメージを示しながら説明し、打ち合わせには十分時間をかけていますね。そして、アフターフォローとして一年に一度、墓石のクリーニングと点検を継続してさせていただくのです。
大沢 専門家によるケアをずっと受けられるのは安心ですね。
坂川 お墓を建立して終わりなのではなく、一生のお付き合いをさせていただきたいと考えてのことです。私共では国の重要文化財の石像物にも採用される免震性(吸震)の高い素材を使ってお墓の地震対策にも力を入れており、新しいお客様をご紹介いただくことも増えました。
大沢 お墓は代々受け継ぐものだからこそ、そうした点も気になりますよね。専務のお話を伺うほど、お墓へのイメージが変わってきました。
坂川 そう言っていただけると嬉しいです。加工技術の向上により、デザインも自由になりました。そのため、故人に会いに行くのが楽しくなるようなお墓づくりが可能になり、それが墓参りの頻度を上げて故人とのつながりを強めています。もちろん、伝統的な形を大切にされる姿勢も尊いものです。私は墓石プロデューサーとして、そうしたお墓に対する皆さんの想いやご希望をいかにコーディネートするかを常に考えています。お墓のあらゆることが分かる展示場を設けており、今後はプレゼンテーションルームをつくるなどしてお墓の大切さをもっと多くの方に伝え、石材業としての新しいスタイルを社員たちと共に追求していきたいと考えています。
大沢 本日はありがとうございました。
「宗教や宗派、墓石の形や価格ではなく、何より大切なのは故人やご先祖様を偲ぶ心です」
(専務・墓石プロデューサー 坂川 昌史)
変わりゆくお墓事情と守りたいもの
▼先祖代々受け継がれてきたお墓ではなく、夫婦だけ、一世代だけの墓を希望する人、さらには親しい友人たちと眠るための共同墓地を希望する人なども増えている現代。お墓を建てることにおける価値観は多様化を極めている。また少子化によって墓の世話が途絶えてしまうなど、共同供養を選ぶ人も増加。宗教観の変化などもあって、昨今のお墓事情は、まさに十人十色だ。
▼そんなお墓事情が変わりゆく中、『坂美石工所』は墓の建立について考える機会を提供。墓に対する知識や供養する心の大切さを伝える講師を招いての講習会を開くなど、啓蒙活動にも力を注ぐ。故人を弔うスタイルは変わろうとも、決して変わってほしくないもの──故人を慈しみ、供養する心を、これからも守っていく。
「典型的な職人の世界にサービス業という新たな価値観を取り入れるのは簡単ではなかったと思います。坂川専務は、そんな逆風に晒される中でも自分の信念を貫き通された方。お墓に対する価値観も多様化した今の時代、ご活躍がますます楽しみです」(大沢 逸美さん・談)
名 称 |
坂美石工所 |
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住 所 |
福井県越前市中平吹町1-5-4 |
対談者名 |
専務・墓石プロデューサー 坂川 昌史 |
U R L |
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掲載誌 |
ザ・ヒューマン 2012年8月号 |
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