伝統ある字彫りの技術に
時代に即した感覚を織り交ぜ
故人を偲ぶに相応しい墓を
石材一般字彫・出張字彫・サンドブラスト加工
■経験の全てを糧として、現在の自分に生かす
菊池社長は、良い意味で欲張りだ。それは、字彫職人となるまでに様々な世界を見たいという想いを実現させ、さらに字彫職人となってからは、そうした数々の経験を、余すことなく字彫りの技術に生かそうとしているからである。
そんな自身の体験を振り返り、若者たちに対しては「まずは身近なことに打ち込んでほしい」と願う。そうすれば本当にやりたいことが見つかるかもしれないからだ。
「何事も懸命に打ち込めば、人生に無駄なことなどない」──それを体現してきた社長だからこそ言える言葉である。
【足跡】 茨城県出身。学業修了後は、大工であった父の手伝いを始める。その後、地場産業である石材業界に転身。そして横浜や東京で鉄筋工職人やデザイナーとして様々な経験を積んでから地元に戻り、再び石材会社に入った。25歳で独立。現在に至る。
故人の第二の住まいであり、遺族が故人を偲ぶための大切な碑である墓。その表面を飾り、故人の生き様を表すと言っても過言ではない文字は、字彫職人の手によって刻まれている。そんな字彫りに、職人としてのプライドの全てを懸けるのが菊池社長率いる「菊池字彫」の面々だ。吉沢京子さんが社長にお話を伺った。
吉沢 まずは菊池社長の歩みから。
菊池 学業修了後は、大工をしていた父の手伝いを始めました。しかしそのうち、様々な職を経験してみたいと考えるように。そこで、この辺りに多い石材会社に就職し、字彫りの仕事と出会ったんです。
吉沢 なるほど。その経験が現在のお仕事につながるわけですね。
菊池 ええ。しかし実はそこから石材業界一筋に歩んできたわけではなく、その後はまた違う経験を積むべく横浜へ出たんです。まずは鉄筋工職人として働き、東京に移ってからは、デザイン会社で働きながらインテリアコーディネートの学校でも学びました。そして帰郷。父の後を継ごうかとも思いましたが、何が自分に向いている仕事かと考えた時、真っ先に頭に浮かんだ石材業界で再度働くことにしたんです。すでに結婚しており、子どもも生まれていたことから、早く独立したいと思うようになりまして。必死で修業を積んで、25歳で独立しました。
吉沢 お若くして独立されたのですね!
菊池 周囲、特に母からは随分反対されましたね(苦笑)。しかし自らも大工として独り立ちした経験を持つ父は、「おまえは言い出したら聞かないし、とにかくやってみれば良い」と言ってくれたんです。そうしてこの会社を興したものの、独立を思い立ってすぐに始めたので、ほとんど準備らしい準備もできておらず、最初の3カ月はひたすら営業活動に回りましたね。そんな中、父の知人から仕事を請けたことがきっかけで徐々に経営を軌道に乗せることができたんです。
吉沢 では字彫りの仕事についてお聞かせ下さい。
菊池 まず、墓石に戒名を彫るのが我々の主な仕事です。もちろんご覧になったことはあると思いますが、字彫りはとても細かく繊細さを求められる作業なんですね。しかも最近では、昔のように文字だけで満足される方が少ない。ですから花の模様を刻むなど、デザインセンスも求められます。また、お客様のあらゆる要望に応えられる臨機応変さも多分に必要となる仕事ですね。
吉沢 デザインセンスとあれば、過去にその道で腕を磨かれた社長ですからお客様も安心して任せられそうです。
菊池 とは言え我々の世界において求められるセンスとは、独創性よりもむしろ、お客様のご要望にどのような形で応えられるかというもの。加えて字彫りは、最早「職人技」だけでは通用しません。ですからご要望に沿って最良の物を完成させられるように、お客様との打ち合わせは綿密に重ね、工程ごとに細かく確認しながら作業を進めていくんです。時にはとても高度な要求をされる方もいますが、どのようなご依頼でも断らず全力を持って仕上げるというのが私の信条。プロとして、日々精進しています。
吉沢 素晴らしい職人魂です。普段から社員の皆さんに伝えておられることはありますか。
菊池 「代わりの人間はいない」と言っています。もちろん「大きな会社ではないので」、という意味もありますが(笑)、私が本当に伝えたいのはそこではありません。たとえ同じ道具を用いて同じ書体で文字を彫っても、職人が違えばその作品は全く違うものになるんですね。当社にいるのは皆、自慢の職人。だからこそ代わりの人間はいないと伝えています。そして彼らも「自分の代わりはいない」と誇りを持って仕事に臨んでくれているので、非常に良い作品ができるんです。
吉沢 とてもやり甲斐のある労働環境を築いていらっしゃるようですね。活気のある良い雰囲気が伝わってきます。
菊池 出来る限り皆が働きやすい環境をつくっていくのが経営者としての私の務めだと考えています。もちろん経営に関しても、私一人の力ではとても無理ですから、支えてくれている税理士さんや事務員さんたちにはいつも感謝しています。皆が自分の持てる力を最大限に発揮して頑張ってくれていますし、当社のチームワークは、とても優れていると自負していますよ。
吉沢 頼もしいです。社長のお言葉には若いパワーがみなぎっていますね。
菊池 私が一人で会社を始めた時、「こんな時代に若造が独立など」と嘲笑されたことがありました。そのような人たちを見返したいと、地道にコツコツ頑張ってきたからこそ現在の当社はあると思っています。私は自ら範を示すことで、若くても頑張ればできるのだというメッセージを同世代の人間に送りたいと思っているんです。友人の中にも、起業の意志を持ちながらなかなか踏み出せない者がいますから、そういった人たちを後押ししたい。言葉より、行動することが何より大切ですし、頑張っていればその姿を見てくれている人は必ずいる。努力は、様々な形で必ず報われると私は思うんです。そうして若い人たちの活躍を願うと共に、業界の活性化の一翼を担っていければ何よりですよ。
「お客様の意向に限りなく沿えるよう、仲間と力を合わせながら
こだわりの仕事をしていきたい」(代表取締役 菊池 剛)
「上辺だけではない社員さんへの想いが、社内を温かく包んでいました」(ゲスト 吉沢 京子)
和の職人が彫る文字に日本の心が宿る
▼墓石の文字は故人と遺族、そして字彫職人を結ぶ。「菊池字彫」のように職人が各々こだわりを持って彫る文字には、日本の職人としての誇りが込められているのである。
▼そもそも世界中どこでも、その国にはその国の持ち味というものがある。もちろん日本も然り。日本人には日本人にしか出せない味があるのだ。そしてその味が生きてこそ本当の良さが生まれるものである。日本の優れた伝統技術はまさにそれに当たるだろう。ましてや第二の住まいである墓の、表札となるべき文字ならばなおのこと。やはり日本の心を感じるものこそ相応しい。
▼それゆえ菊池社長は「これに勝る責任とやり甲斐はない」との自負を持ち、そしてそんな想いを後進に伝えていきたいと語る。業界を盛り上げようと、若手の育成に励む社長と同社の面々は、必ずやこの誇り高き字彫職人の技術を伝えていってくれるに違いないと感じた。
「技術やセンスへのこだわりはもちろん、菊池社長が抱いておられる社員の皆さんへの想いに、私は心を打たれました。人材が溢れるこの時代にあって、『あなたの代わりはいない』と言われる社員さんたちは幸せですね。個々の才能よりもまず、『菊池字彫』さんには人と人の温かいつながりが溢れていることを感じました。今後も皆さんで頑張って下さいね」(吉沢 京子さん・談)
名 称 |
株式会社 菊池字彫 |
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住 所 |
茨城県桜川市真壁町上谷貝1570-4 |
代表者名 |
代表取締役 菊池 剛 |
掲載誌 |
国際ジャーナル 2011年9月号 |
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