林業に従事する意義──
それを感じながら事業継続を目指し
山と向き合い続けたい
素材生産販売 一般貨物自動車運送業
「山の仕事に従事する者にしか分からない達成感ややり甲斐、誇りがあります」
「結局のところ、山が好きなんでしょうね」。
林業を取り巻く決して楽観視できない状況を懸念しながら、そう話した石黒社長。
今ほど機械化が進んでおらず手作業に頼っていた時代から、林業に従事してきた。
その胸には、業界の移り変わりの中でも、決して揺るがないものがある。
山の仕事に従事する自分たちにしか味わえない達成感だ。
荒れた山が自分たちの手によって蘇り、健全な状態を取り戻す様子には、何ものにも代え難いやり甲斐、そして誇りを感じてきた。
それらは今も決して褪せることなく、社長が山と向き合う原動力となっている。
【足跡】 福島県出身。農業と林業を兼業する家に、長男として生まれる。父親の背中を見て育ち、早くから手伝いに入るなど家業に慣れ親しんだ。学業修了後は、迷うことなく家業に入った。自身は林業に力を入れるようになり、『いしぐろ』をスタート。長く業界を歩んできた者として、林業の重要性を感じながら、若手の育成にも努める。
長年、林業の世界を歩んできた石黒社長が率いる『いしぐろ』。素材の生産や販売を手掛け、地元の林業を下支えしてきた。木材を生産する以上の役割が林業にはあるとの考えで、従業員らと共に日々、現場に立つ。本日は俳優の石橋正次氏がそんな社長のもとを訪問し、お話を伺った。
石橋 早速ですが、石黒社長の歩みからお聞かせ下さい。
石黒 実家が農業と林業を兼業しているんです。私は長男だったものですから、家業を継ぐ将来を当然のことと思っていましたし、別の道を考えたこともありません。
石橋 昔は、家が事業を営んでいれば、子どもが後を継ぐのが当たり前でしたね。
石黒 そんな時代でしたよね。山間部では、兼業として炭焼きを行う農家が多く、私共も同様でして、子どものころより炭窯から炭を取り出すのをよく手伝ったものですよ。それで学業修了後には父の農業を手伝いながら、私は林業の方に携わることにしたのです。
石橋 そうした自然とのふれあいの中で育たれたのですね。『いしぐろ』さんを創業された、と。
石黒 はい。農業や林業を継続して手掛けていくためには、やはり組織をつくり、基盤を整える必要があると考えてのことでした。お陰様で共に頑張ってくれる従業員も増え、皆のために福利厚生を充実させたいと考えたことも会社を立ち上げた理由の一つです。また、仕事を獲得する上でも、法人化することで社会的信用が増しますので、現在の体制を整えました。
石橋 なるほど。農業や林業は地域を支える大切な分野です。会社の設立は、より一層、励もうという決意の表れでもあったのですね。森林は手入れをしなければ荒廃してしまうと聞いたことがありますが、この辺りは山が豊かですから、手入れも大変なのではありませんか。
石黒 おっしゃる通りです。ただ、森林は木材を生産するばかりではなく、水を蓄えたり、空気を浄化したりと環境保全の側面からも、我々の暮らしにとって必要不可欠です。そのため日ごろから、間伐などを行うことで森林を守ることが大切なのですよ。ただ、丸太の価格が暴落したりすると、どうしてもその影響を避けることができない難しい分野ですね。
石橋 山は守らなければならない、でも経営も維持しなければならない。この業界を生きる企業としては、ジレンマですよね。御社では伐採だけでなく、加工も手掛けておいでなのですか。
石黒 いえ、素材生産と販売が主な業務でして、木を切って出荷するまでが当社の仕事です。
石橋 木の伐採は、熟練の技術が必要な難しい仕事だと聞いたことがあります。
石黒 はい。木は同じように見えて、一本一本が違います。木の太さ、向き、状態、そして勾配など周辺環境も見極めて伐採しなければなりません。そのため確かに、技術や勘、そして経験が必要で、一人前になるには相当の時間がかかります。ただ、体力的にも厳しい仕事ですので、高齢になると難しいんです。現場は危険も伴い、臨機応変な対応も求められるので、フットワークの軽さ、機敏に動けることも大切ですからね。
石橋 業界全体として、高齢化が進んでいると聞きます。
石黒 当社の従業員はみな若いんですよ。細かい手続きや事務作業もあり、ITにも慣れ親しんでおく必要がありますが、その辺りはやはり若手の方が柔軟性があり、頼りになります。その若手については何を置いてもまずはやる気があることが大切で、やる気がある者は前向きに学びますので、覚えが早く、成長のスピードも速いですね。決して楽な仕事ではありませんが、荒れた山が自分たちが手入れすることで健全な状態を取り戻したり、甦る姿を見て、やり甲斐や誇りを感じてもらえたらと思います。山の仕事に従事する自分たちにしか味わえない達成感ですから。
石橋 社会貢献度の高いお仕事ですよね。社長が林業に従事するようになられてから、この業界の様相も随分と変わったのではありませんか。
石黒 昔は設備が揃っておらず、今のような機械化は想像できませんでした。山から木を降ろすのも手作業で、大変でしたよ。馬からエンジン付きの機械へと変わり、時代の流れを感じますね。機械化が進んで効率が向上したと同時に、安全管理の必要性も上がりましたから、とにかく従業員には安全を第一に作業に従事するよう話しています。大切な皆を事故などから守りたいと同時に、作業がストップすればお客様など関係者に迷惑をかけることにもなってしまう。そのため、現場では緊張感を持って作業に取り組んでもらっています。
石橋 社長は従業員の方々を大切に思っていらっしゃるのですね。
石黒 会社を支えてくれているのは彼らですから。努力に報いることができるよう、また皆が一層、やり甲斐を持って働けるよう、私は会社の規模拡大を目指したいと思います。
山の仕事に従事する者としての役割
▼植林し、間伐など手入れを施し、伐採し、そしてまた植林する──そうして人々は山を育て、健全な状態に保ってきた。林産物の供給はもとより、水源の涵養や山地災害の防止など、我々が知る以上の役割を森林は担い、その恩恵を我々は受けている。しかし、その森林を取り巻く様相は時代を経て変化しており、林業の採算性が低いことから、間伐などが充分に実施されない森林や、伐採した後の植栽が進んでいない森林が見られる。そんな中、山の手入れの大切さを切に感じながら、林業に取り組むのが石黒社長と従業員だ。山の仕事に従事する者として、やるべきことは充分に理解している。だからこそ、採算性の低さなどから手入れが手薄になる森林が増えていることを懸念し、ジレンマを感じずにはいられない。それでも地道に、自分たちの役割を果たそうとする社長や従業員のような存在によって、我が国の森林、そして暮らしが守られていることを我々は知らねばならない。
「『いしぐろ』さんでは、女性の従業員の方も働いていらっしゃるそうです。林業と聞くと男の世界だと想像しがちですが、社会貢献度の高いお仕事ですから、役立ちたいとの意欲に性別は関係ないのでしょうね。従業員の方々は皆さん、お若いとのことですから、今後も業界を下支えしていかれることでしょう。皆さんのますますのご活躍を、応援していますよ!」(石橋 正次さん・談)
名 称 |
有限会社 いしぐろ |
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住 所 |
福島県東白川郡塙町大字塙字宮田町16-8 |
代表者名 |
代表取締役 石黒 一夫 |
掲載誌 |
センチュリー 2013年10月号 |
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