
つながりを求める心が歪みを生む──
「学校裏サイト」の実態
とっくの昔に学校を卒業した大人でも、最近、「学校裏サイト」なるものについて耳にしたことがないだろうか。学校裏サイトとは、学校の公式サイトとは別に、子どもたちによって立ち上げられた、学校内の情報交換を目的としたサイトである。学校名に「●」や「★」などの記号を付けたり隠語を用いたりして学校名が分かりにくくしてあるものや、パスワードが必要なものなどがある。また、子どもたちは自分の携帯電話からアクセスすることが多いため、大人の目が届きにくい世界でもある。

2008年4月に発表された文部科学省の調査によると、2008年1月から3月の間に確認できた学校に関する非公式サイトは、サイト数、スレッド数を合わせて約38,260件にも上った(調査の対象としたのは、学校管理者が公式に運営しているホームページ以外の、中高生が携帯電話やインターネットを通じて閲覧、書き込み、管理運営等を行うことができる公開型の各種サイトやスレッドである)。その形態としては、特定の学校の生徒が閲覧や書き込みをするもの(表-A)、特定の学校というくくりを持たず、全国の中高生が誰でも掲示板を閲覧し書き込みもできるもの(表-B)、「2ちゃんねる」などの巨大掲示板にスレッドとして掲載されているもの(表-C)、グループ・ホームページ型で、数人の仲間内で遊ぶもの(表-D)などがある。特に多かったのがスレッド型非公式サイトで、全体の87.6%にも上った。新たにサイトを立ち上げるのではなく、すでに存在する巨大掲示板にスレッドをつくるという、比較的安易な方法から、多くの学校裏サイトが生まれていることが分かる。さらに考察すると、「2ちゃんねる」上で他の学校の裏サイトを見た生徒が、「自分の学校もあると良いな」と考えてつくったケースもあると思われる。
さて気になる学校裏サイトの内容だが、一体そこには何が書かれているのだろうか? 前述した文部科学省の調査によると、対象とした約2,000件の書き込みの内、「キモイ」「うざい」などの誹謗中傷の言葉が含まれるものが50%、性器の俗称などわいせつな言葉が含まれるものが37%、「死ね」「消えろ」「殺す」など暴力を誘発する言葉が含まれるものが27%を占めた。もちろん陰湿な書き込みばかりではない。学校行事や定期テストの情報交換など、中高生らしいやりとりもなされている。しかしそういった一般的な話題の中で「キモイ」「うざい」などの言葉がふと出たことから、一転して中傷に移ることが多いようだ。学校裏サイトを研究している群馬大学の下田博次教授が書き込みを調査したところによると、「うちの学校でかっこいいの誰」という話題で始まった書き込みが、「キモイ」という言葉が書かれたのをきっかけに、「キモイと言えば○×君」などの内容に変わったという。仲の良い友達同士で喋っている時に、ふと悪口や愚痴が会話に上るのと同じような気安さで、中傷の書き込みがなされていることが分かる。しかしインターネット上では誰が聞いている(見ている)か知れず、情報が広まるのも、人の口とは比べものにならないくらい早い。また匿名の世界であるために、「誰が言っているか分からない=皆の意見である」という誤解も生じやすいと思われる。インターネット上での中傷は、恐ろしい凶器なのだ。
中傷に加えて多いのが、わいせつ画像である。女の子が自分の裸をケータイカメラで撮影して「見てね」と掲載するケースもあるらしく、信じがたい事態が繰り広げられている。しかし、性に関心を持つ年頃の中高生が、大人の関知しない世界を手に入れたなら、性に関するやり取りが出るのは避けられないことだろう。
では、どれだけの中高生が学校裏サイトを利用しているのだろうか。文部科学省の調査によると、調査対象1,522人の内学校裏サイトの存在を「知っている」と答えたのは33%だった。さらにその中の70.5%が「見たことがある」と答え、13.8%が「書き込んだことがある」と回答した。学校裏サイトの存在を知らない生徒の方が多いからといって安心するのは間違っている。すでに数多くのサイトが存在しているのは事実なのだ。学校裏サイトを知っている生徒の多くが、実際に閲覧していることから、サイトの存在を知った場合、多くの生徒がアクセスすると考えられる。
また、サイトの閲覧をした理由を調査したところ、「友達に関する情報交換」や「その他学校生活や先生等に関する情報交換」、「クラブ・部活動の情報交換」といった回答が見られる一方で、「暇つぶし」という回答が76.8%を占めた。子どもたちが、ごく軽い気持ちで学校裏サイトを訪れていることが分かる。子どもの世界において、学校は大変大きな存在である。自分の学校について書かれているサイトがあると知れば、興味心が動くのは当然のことだ。
文部科学省の調査によると、2006年度に全国の小学校や中学校、高校が把握したいじめの件数のうち、3.9%に「パソコンや携帯電話等で誹謗中傷や嫌なことをされる」といったネットいじめがあったという。ネットいじめには、「死ね」「キモイ」などと書いたメールを大量に送りつけるケースや、「プロフ」と呼ばれるサイトを使ったケースがある。「プロフ」とは、モバイル用ネットに自己紹介のページを作成・閲覧できるサイトだ。これを利用し、本人になりすまして事実と異なる内容を書き込むなどするいじめが起こっているのだ。そして、メールや「プロフ」に加えて、学校裏サイトもネットいじめの温床となっているのである。
学校裏サイトでは実名をあげて誹謗中傷を行ったり、個人情報を勝手に公開したりといったネットいじめが見られる。加害者が誰か分からないことは、被害者に大きな苦痛を与える。また現実の学校生活に何の問題もないのにネット上では攻撃される場合もあり、これでは周囲の人間が信じられず疑心暗鬼になってしまうだろう。さらに、インターネット上の根拠のないデマが、現実世界に重大な影響をもたらすこともある。根も葉もない中傷をサイトに書き込まれ、それを見た就職内定先から内定を取り消されたり、「カンニングした」と書き込まれたことにより学校の単位が取得できなかったりといった事例が起こっているのだ。
「フィルタリング」とは、ネットワークから受け取る情報に対してフィルターをかけ、子どもに有害なものや見せたくないものをカットする仕組みである。パソコンの場合、プロバイダが無料でフィルタリング機能を提供していたり、フィルタリングソフトを使用するなどの形がある。いずれも保護者や教師がどのような情報をカットするか設定し、パスワードをかけて管理する。きちんと設定すれば、子どもがいきなりアダルトサイトや出会い系サイトに接続することがなくなり、安心して子どもにパソコンを使わせることができるようになるのである。
携帯電話にも、パソコンのようなフィルタリング機能があるのだが、これまであまり利用されてこなかった。その要因としては、携帯電話会社や販売店が、フィルタリングについて、子どもや保護者に積極的な説明や推奨を行ってこなかったことが考えられる。また、子どもに携帯電話を持たせる保護者の方も、まさか携帯電話がこれほど深刻な問題を生み出そうとは思っていなかったのだろう。
しかし、憂慮すべき事態を受けて、携帯電話会社もフィルタリングの普及に力を入れ始めた。けれどもその機能はまだ未完成であり、フィルタリングさえかければ問題は全て解決すると考えるのは早計に過ぎる。現行のフィルタリングサービスでは、「ホワイトリスト」と呼ばれる特定のサイトしか利用できなくなるものか、「ブラックリスト」と呼ばれる特定のサイト以外なら全て利用できるものの2種類しかない。また、設定基準は携帯電話会社が決めるので、利用者側が細かい設定をすることができなくなっている。これでは小学生でも高校生でも同じ閲覧制限となってしまうし、例え優良なサイトであっても排除項目のジャンルであれば閲覧することができない。そのため、より柔軟な設定基準が求められていたのだ。このような保護者のニーズに応えて、携帯電話大手2企業が2009年1月から新サービスの展開を始める方針を明らかにした。新サービスでは、携帯電話会社が有害と思われるサイトの選択肢を示し、保護者がその中から閲覧制限を外すものを選ぶ。フィルタリングの可能性に期待が集まる中、大きな前進であるが、今後も携帯電話会社には、よりきめ細やかなフィルタリングサービスが求められていくことだろう。
子どもたちに人気のあるサイトは、「コミュニケーション」を目的としたサイトであることが多い。ここまで、問題点を挙げてきた学校裏サイトにしても、同じ学校に通う仲間とのつながりを求めて生まれたものである。現実世界で人間関係に問題を抱えているために、インターネットの世界に人とのつながりを求める子どももいるだろう。闇雲なフィルタリングの導入は、つながりを求める子どもたちから居場所を奪うことにもなりかねない。では、後を絶たず起こるインターネット上の問題に大人はいかに対処し、いかに子どもを守れば良いのだろうか?求められるのは、まずフィルタリング機能をより充実させること。子どもたちにインターネットの恐ろしさについて教えること。子どもたちがインターネットを通して人に害を加えた場合、きちんと罰すること。それらに加えて、子どもたちがインターネット上での人とのつながりを失っても、充分魅力的だと感じられるような現実世界でのつながりを構築することが大切なのではないだろうか。大人たちのするべきことは、携帯電話を買い与えた保護者が筆頭となって、子どもたちとより密な関わりを持てるよう努力することだ。面白いものは、インターネットだけじゃないと伝えたい。