140年の伝統
渡嘉敷 この辺りは「筆の都」と呼ばれる筆の産地だそうですね。
城本 ええ。あまり知られていないのですが、全国の筆の生産量の約80%をこの熊野町で生産しています。地元の熊野筆事業協同組合に入っている会社だけでも115社ほどあります。当社はその中でも古い歴史を持つとともに書筆の生産量では全国ナンバーワンの企業として、地元からも篤い信頼を寄せてもらっております。
渡嘉敷 長年にわたって地場の産業をリードしてこられたわけですね。社長で何代目になるのでしょう。
城本 六代目になります。当社は明治14年創業ですが、個人営業の時代を含めますと筆作り140年の伝統があります。ですから、老舗企業の跡取りとして「いずれは継がなければ」という考えを持ちながら成長しました。そのため、社会人経験を積むべく金融機関で働いて海外生活もしていたのですが、父の急逝を聞いたときには迷わず帰ってくることを決断しました。
渡嘉敷 伝統を守るという大きな使命もあるでしょうが、新たに変えていこうと思われる部分もあるでしょう。
城本 はい。自分の金融業界での経験を活かして、温故知新というか、昔ながらの良い点を認めつつも、新しい風を吹き込みたいと考えています。既にマネジメントの部分では変革を進めています。具体的には、この会社はトップダウンで物事が動くことが多かったのですが、それを社員一人ひとりが自主性を持ち、自分で考えて行動できるような企業へと変えていっています。また、コスト管理においても従来の丼勘定的なものからしっかり原価計算をしてそれらのデータをシステム化して分析することで、それぞれの部門の売上や損益を明確にしまして、賞与などにも反映させています。また商品としても化粧筆や赤ちゃんの毛髪で作る「誕生筆」などもデザイン性をより高め、幅広い方々に筆の良さをアピールしたいと考えています。こうした試みによって社員のモチベーションをアップさせ、さらには業界全体も活気づけていきたいです。
渡嘉敷 将来的な夢は何でしょう。
城本 昔は画筆を海外に輸出しており、毛筆製造業界で初めて輸出貢献企業として通産大臣表彰を受賞したこともありましたが、海外企業の廉価品に取って代わられてから二十年以上経ちました。しかし品質では絶対の自信がありますし、もう一度、そして今度は書筆・画筆・化粧筆で海外での勝負に挑んでみたいと思っています。日本の伝統文化である書道の海外での普及のお役に立つことができ、かつ日本の筆の良さをたくさんの人に知ってもらうことができれば嬉しいです。
渡嘉敷 今後とも頑張って下さいね。