古き良き伝統と瑞々しい感性二つが交差する街が物語を紡ぐ

協英地所 株式会社

代表取締役 山田 将嗣

【異業種ネット】月刊経営情報誌『国際ジャーナル』特別取材企画 掲載記事─略歴

「街をつなぎ、美しく整える流れ。
それを生み出せる企業でありたい」
「街は感動を求めている」。そう、山田社長は語る。従来の箱物──動きのない閉じられた空間に、感動はない。行き交う人々が交わし合う視線、雑踏のざわめきの中で交錯する人生。それらが織りなす物語の中こそ、感動が生まれる場所なのだ。新たな街のシーンをクリエイトすべく、社長の挑戦は続いていく。
【足跡】 1965年、兵庫県宝塚市に生まれる。甲南大学経済学部へ進学。学生時代はゴルフに打ち込み、プロを志すほどの腕前を誇った。卒業後は遊休地物件の活用を生業に。宝塚を中心にカフェやベーカリーショップ、うどん屋、アパレルショップなど多岐に亘る店舗運営を手掛け経験を積む。転機は梅田・茶屋町でのカラオケ店出店。1億円を借り入れて挑戦したこのプロジェクトは“サービス業としてのカラオケ店”という、当時としては画期的だった概念を前面に打ち出し成功を収めた。以降、活躍の場を大阪に移し、北新地や茶屋町といった一等地を開発。古い伝統と新しい感性を交差させ、街に集う人々に感動を与えるというモットーに基づき積極的に事業を展開している。
VIEW POINT──

  世界中からその美しさを賞賛されるヨーロッパの街並み。だが、その理由を問うたことがあるだろうか? 空間デザインのプロである山田社長は次のように分析する。それは、街全体が人の移動を前提としてつくられているからだ、と。「あの店でお茶をして、次にその角のブティックに寄って買い物をして帰ろう」。そんなバランスのとれた人の流れが、街全体のつながりを生み、美しく整えているというのだ。

  翻って日本はどうか。これまで主流だった百貨店に代表される箱物商業施設は、街に人を出さない仕組みになっている。一つの施設の中で、全てが揃い完結する。しかし、それでは街は育たない。外部との関係を絶たれ、内部を循環し続ける人と情報が詰まった箱物。それがいつか疲弊し魅力を失うことは、想像に難くない。そして、その手法の有効性が限界を迎えつつあるのが今の現実だろう。

  街に新しい人の流れを生み出す──その挑戦が、北新地でのビルリノベーションプロジェクト「ESPASION YAMADA」であり、梅田・茶屋町の開発事業「XROSS chayamachi」だ。

  中でも「XROSS chayamachi」は、「街は、人、そして歴史と感性が交差するところであるべき」という社長の信念を余すことなく体現する存在である。敷地内を縦横に横断する私道は公道より広く、敷地の内外、そして店と店をつなぐ。交差する道を流れ続ける無数の人や視線、そして感性は、日々休むことなく店と街を磨き洗っていく。人や情報が流れ続けるこの空間は常に新鮮なエネルギーに満ち、街全体を更なる発展に導く可能性を秘めているのだ。

  街そのものに価値を持たせ、ブランド化したい──社長の壮大な挑戦は、まだ始まったばかりである。

【異業種ネット】月刊経営情報誌『国際ジャーナル』特別取材企画 掲載記事─取材記事写真

▲山田社長の理想を体現した「XROSS chayamachi」。広々とした通りに沿って端正な建物が並ぶ様は、ヨーロッパの街並みを思わせる。日々多くの人で賑わい、国内外の有名店が集う同地は、梅田・茶屋町の“顔”の一つだ。これからも多様な表情を見せてくれるに違いない。

 

▼「ESPASION YAMADA」。洗煉された華やかな佇まいで、大阪屈指の繁華街である北新地でも、ひときわ目を惹く存在だ。

【異業種ネット】月刊経営情報誌『国際ジャーナル』特別取材企画 掲載記事─取材記事写真

不動産ディベロッパーとして華やかな活躍を見せている「協英地所」。大阪有数の繁華街・北新地と、梅田・茶屋町にそれぞれ新しい施設を誕生させ、これまでになかった人の流れを生み出した。同社を率いるのは代表取締役、山田将嗣氏。街について独自の持論を持つ社長に、俳優・小倉一郎氏が話を伺った。

【異業種ネット】月刊経営情報誌『国際ジャーナル』特別取材企画 掲載記事─対談

小倉 ほう。ここには暖炉があるんですね。壁に並んだ洋書も趣があっていい。

山田 そこにある洋書や映画のパンフレットは、仕事で使う資料なんです。例えば打ち合わせの時などにデザイナーに見てもらい、「このシーンのような雰囲気にしてほしい」、と言うとよく伝わる。一見抽象的で漠然とした指示のようですが、写真に写った様々なアイテム、例えば女性の服装や読んでいる雑誌、食べている料理、使っている携帯電話などから、こちらがターゲットとするグループのライフスタイルが読みとれるんですよ。

小倉 なるほど。面白いですね。山田社長はずっと不動産業の道を?

【異業種ネット】月刊経営情報誌『国際ジャーナル』特別取材企画 掲載記事─取材記事写真

山田 今は不動産ディベロッパーをしていますが、以前は遊休地物件の活用を手掛けていました。何年後かに開発が予定されている土地で、工事までのつなぎとしてカフェやベーカリーショップ、アパレルショップを展開・運営してきたんです。転機は茶屋町で手掛けたカラオケ店。当時のカラオケ店は、カラオケ機器メーカーが商品展示のために手掛けていたような状態でした。ですから、アパートのように並んだ画一的な部屋に、冷凍食品の食事、不衛生なトイレと、時間を過ごすことを楽しめる空間ではなかったんです。そしてそれが“当たり前”として受け入れられていました。しかし、私はそこに疑問を感じたんです。「カラオケ店はもっと快適な空間であってもいいんではないか?」と。そこで1億円の融資を受けて、茶屋町に自分の理想とするカラオケ店を出店したんです。

小倉 ほう。思い切られましたね。

山田 私からすれば、背水の陣です。一部屋一部屋に違うコンセプトを設け、椅子の生地からドアのノブまで徹底的にこだわってつくりました。動線も複雑にし、洗面所に行くときに他の部屋が視界に入るように工夫。「あの部屋、私たちが歌っているところと全然違う」と興味を惹くようなつくりにしたんです。結果は大成功。当時未開発だった茶屋町という立地にもかかわらず異例の売上を記録したということで、カラオケの楽曲配信会社からスピーチの依頼を受けましたよ。

小倉 素晴らしい。“当たり前”というのはある意味諦念ですから、そこを追求すれば、より消費者のニーズに近いものが生まれるのですね。

山田 仰る通りです。カラオケ店の時も「カラオケ店なんだから冷凍食品の食事で“当たり前”でしょう。なぜそこまでこだわるの?」という声をたくさん聞きました。しかし、私はその“当たり前”を変えることにこそ突破口がある気がするんです。そう感じるのも、単に私が天の邪鬼だからかもしれませんが(笑)。ただ、ベーカリーショップで耳にする「ちょっとこのパン高いわね」というご婦人の声から店の成否を占ってきた私にとっては、消費者の満足を追求すれば結果が出るということこそ“当たり前”のことだったんですよ。しかし件のカラオケ店も遊休地物件。7年間という契約期間が過ぎれば畳むしかありません。そこで改めて自分の進むべき道を考えたんです。今まで設計などに携わった経験や、アパレルの仕入れで渡欧した際に得た見聞。それらを活かしてもっと社会に貢献できるのではないか、と。

小倉 そこからディベロッパーの道へ?

山田 そうです。私が考えたのは、自身がお世話になった大阪・茶屋町という土地の街並みを変え、何かを発信できる土地に育てたいということでした。そんな時に、北新地の古いビルを買収する機会に恵まれたんですよ。バブル経済の崩壊により、北新地の店の多くが、非常に厳しい経営を強いられていました。そうした状況の中、私はあえてこれまで北新地が目を向けなかった層をターゲットにリノベーションを手掛けたんです。新たなターゲットは、30代のビジネスマンや、20代後半のOLたち。彼らが健全に楽しめる場所をつくることで、新たな人の流れを生み出すことができました。それが、「ESPASION YAMADA」です。

小倉 それも、一つの“当たり前”への挑戦ですね。

山田 ええ。これまで街に来なかった人が街に来るようになれば、街全体が活気づくでしょう。一つのビルが人の流れを変え、街並みを変える──その理想を胸に手掛けました。

小倉 当たり前を疑う見識こそが、次の時代を生み出すのですね。社長の今後のご活躍が楽しみです。

山田 現在、私が目指しているのは茶屋町という街のブランド化です。阪急・梅田駅の近くに「XROSS chayamachi」という商業施設を運営開発しているのですが、そのモチーフは“道”。文化や感性、あらゆるものが行き交う場所にこそ、新しいものが生まれる。企業ですから利益を追求することはもちろんですが、自分の理想も追い求めたいと思います。街をつくりだすディベロッパーだからこそ、都市、そして都市に展開する他の企業とも手を携え、街そのものの価値を高めていきたいですね。茶屋町ブランドの発展に期待して下さい。


不動産ディベロッパーという仕事にまず求められる要素。それは、“周囲との調和とバランス”だと山田社長は考えている。長いスパンで“街づくり”の視点から都市を開発していくのがディベロッパーの仕事。自分の利益だけを追求していては、周囲との関係は軋み、人の流れは偏ってしまうからだ。

バランスの取れた流れが生む、美しい街並みの実現が社長の理想だ。そのために、社長は開発段階から周囲の理解を得るべくあらゆる手段を尽くす。完成後のイメージを熱く語り、夢をぶつける。そして、具体的な将来像を映像として提示する。理論だけでなく、聴覚や視覚を駆使して展開される交渉に、初めは不安そうな面持ちの関係者も次第に緊張を解き、最後には話に引き込まれてしまう。

都市開発では、一人勝ちは長続きしない。これまで常にWin-Winの関係を築き上げてきたからこそ、今の社長の成功があるのだ。

【異業種ネット】月刊経営情報誌『国際ジャーナル』特別取材企画 掲載記事─取材記事写真


 

対談を終えて
「山田社長のお話を伺い、利益を生み出すよりも、己の理想を形にしたいという想いが強い方なのだと感じましたね。そんな社長だからこそ、全体を見渡し調和の取れた開発計画が進められるのでしょう。街並みの美しさに関する持論は独特で、お伺いしていて非常に興味深かったです。これからのご活躍を期待しています!」(小倉 一郎さん・談)

【異業種ネット】月刊経営情報誌『国際ジャーナル』特別取材企画 掲載記事─会社概要

名 称
協英地所 株式会社
住 所
大阪市北区中崎西1-2-4
代表者名
代表取締役 山田 将嗣
掲載誌
国際ジャーナル 2010年2月号
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