鮮魚貝・松茸出荷
三ツ木 まずは鈴木社長の歩みからお伺いします。
鈴木 私は地元山田町の出身で、以前はJAに勤めていました。当社は家内の父親が創業したのですが、後継者がいないということで私がこちらに招かれ、一昨年代表職を交替して現在に至っています。
三ツ木 お勤めのころは、どのような業務に携わっておられたのですか。
鈴木 学校を卒業してから20年ぐらい勤めましたが、信用・共済・融資・購買・販売と全業務に携わり長く企画総務課に在籍していました。様々な企画立案などにも携わり、その中で経営に関する知識やノウハウを得てきたことが、現職に就いてからも大いに役立ちましたね。例えば現在、当社では帆立貝などの水産物加工と松茸の出荷を主体にしていますが、JA時代も同じように荷受けして市場に売るという業務を経験していました。加えて私の生家は、帆立貝や牡蠣の養殖業を営んでいたので、仕事が休みの日はいつも手伝っていたんです。そうした背景があったので、団体職員から経営者になったとはいえ、何の違和感もなく新しいスタートを切ることができたんですよ。
三ツ木 専務は、社長が就任されてからこちらの仕事を手伝うようになられたのでしょうか。
鈴木(佳) いえ、この会社に入社したのは20歳のときで、もう勤続20年ぐらいになります。ですから、ここでは主人よりも私の方が先輩になるんですよ(笑)。それでも主人は、一生懸命頑張ってくれていると思います。
様々な角度から無駄をなくし
リサイクルを実践
三ツ木 毎日、どのような流れで業務を進めていらっしゃるのでしょう。
鈴木 この時期のメインである帆立貝を例に挙げると、まずは毎朝、各漁協から届く帆立貝を規格に応じて選別する作業からスタートします。その後、箱詰め作業や貝柱だけの状態に加工してパック詰めする作業があり、その一方では市場と連絡を取って出荷量を確定することに奔走していますね。
三ツ木 需要は日々変動するでしょうから、仕入れとのバランスを調整するのが難しそうですね。
鈴木 おっしゃる通りです。ピーク時には1日の出荷量が2トンを超えますが、それが毎日続くわけではありません。不景気の影響で販売量も減っていますから、市場と緊密に連絡を取って、安定した数量を出荷できるように努めているのです。
三ツ木 小売店や飲食店に直接卸されることはあるのでしょうか。
鈴木 回転寿司店などの飲食店関係には一部卸していますが、基本的には市場向けですね。この近辺だけでなく、遠くは九州まで出荷しています。
三ツ木 ほう、九州まで。岩手県産の帆立貝が、九州まで旅するというのはどこか感慨深いですね(笑)。ところで、代替わりをされてから、新たに取り組まれたことはありますか。
鈴木 帆立貝の貝柱をパック詰めする際、従来はヒモの部分を産業廃棄物として捨てていました。ヒモは寿司ネタなどにも使えますが、金額的には非常に安くで販売するほかなく、労力や人件費を考えたら捨てた方が良いと思われていたのです。しかし、ヒモだけを別にパック詰めして販売すれば、僅かながら利益が出ることが分かりました。そこで現在は、貝柱とヒモをそれぞれ別々にパッキングして出荷しています。その他の部分は今も廃棄処分にしていますが、ヒモで得られる利益で廃棄費用が賄えるようになり、経営の上では大きなプラスとなっています。また、帆立貝の原盤──貝殻のことですが、これも処分せずに真牡蠣の種を付けて養殖に使っているんですよ。
三ツ木 牡蠣を育てるのに帆立貝の殻を使うというのは面白いですね。
鈴木 これは先代のころに始めたことですが、コスト削減という観点だけでなく、環境保護という観点においても大事なことだと思っています。これからも様々な角度から事業を見直し、無駄がないよう工夫していきたいですね。
三ツ木 今後が益々楽しみですが、将来的に、どのような展望をお持ちですか。
鈴木 まずは規模を大きくするよりも、事業の柱を増やすことに力を入れていきたいですね。現在は帆立貝や真牡蠣が中心ですが、ホヤやムール貝なども需要がありますので着手したいと考えています。そうして、先代から引き継いだ水産物加工業を継続しながら、余力ができればデイサービスなどの介護事業にも進出したい。この地域も高齢化が進んでいますし、従兄弟が2人、ケアマネージャーの資格を持っているんですよ。また、私自身も勤務時代、福祉施設の規約や規定づくりに関わった経験がありますので、それを活かせたらと考えています。
「良いものを安定して提供するために工夫を凝らし、努力を続けていきたい」(代表取締役 鈴木 育夫)
「二代目として頑張っている姿が頼もしいですね」
(専務取締役 鈴木 佳奈子)
▼帆立貝の産地といえば北海道が有名だが、甘くて肉厚な三陸産帆立貝はブランドとして定着しており、北海道産や青森県産に並ぶ人気を誇っている。「帆立貝は生食なので時間との闘い。加工作業においても、鮮度を保つように細心の注意を払い、手早く処理するように心がけています」と鈴木社長は言う。その点、『マルショウ商店』にはこの道約20年の佳奈子専務をはじめ勤続年数の長いスタッフが多く、通常、帆立貝を選別する作業で専用の物差しを使うところを、見た目で判断できるベテランもいるのだとか。このことは、同社のスピーディーな作業を裏付けていると言っていい。
▼また、手際の良さ以上に重要なことは衛生管理。食の安心・安全が叫ばれる以前から、同社では作業スタッフのマスク・帽子・手袋の着用と手洗いを徹底。衛生管理の行き届いた工場で作業を行い、一人ひとりの意識向上にも努めてきた。
▼社長がJAの職員から転向し、同社の代表として歩み始めてから2年。経営者としての経験は浅くとも、社長には生家で養殖業に携わってきた経験と、約20年にわたり、JAを通じて地域の食を支えてきたという大きな実績がある。そんな社長の今後の課題は、新たな組織づくり。先代のころから勤務しているスタッフも高齢化し、「近いうちに全体的な世代交代がある」と読む。慎重に新たな人材の獲得に取り組んでいくとともに、「事業の幅を広げて、長く働いてもらえる環境を整えていきたい」と意欲を見せている。
【工場】
岩手県下閉伊郡山田町織笠第11地割111