吉沢 今城社長は「今城左官」の二代目と伺っています。小さい頃からこのお仕事に興味をお持ちだったんでしょうか?
今城 実は、昔は車やバイクが好きで、整備士などの自動車関係の仕事に就きたいと思っていたんです。そのために工業高校に進学もしました。ところが高校一年生の時、家の事情で急に学校を辞めざるをえなくなってしまい、左官職人として働いていた父と一緒に、現場に出ることになったんです。
吉沢 そうでしたか。希望とは違う進路に対して、抵抗はありませんでしたか。
今城 それが特になかったんですよ。小さい頃から父の働く姿を見て育ってきましたし、私自身サラリーマンになろうという考えはなかったものですから、ごく自然に左官の道に進んでいました。その後、父が当社を立ちあげた際も、いつか自分が継ぐんだろうなと、漠然と考えていたんです。
吉沢 意識せずとも、二代目としての責任感が養われていたのでしょう。苦労されたことはありましたか?
今城 そうですね……。強いて言えば、まだ修業中の若い時期から、二代目として職人に指示を出さなくてはならない立場になったことでしょうか。相手は職人として大先輩の人たちばかり。技術の高さは向こうの方が格段に上ですし、そんな方々に、二代目とはいえ、私が指図することに気が引けました。結局、後輩として“お願い”するというかたちを取ったんです。
吉沢 経営者にはそうした柔軟性も必要だと思います。だからこそ職人の方がついてくるのでしょう。二代目として、御社の強みとは何だと思われますか?
今城 左官の仕事であれば、内容を問わず請け負える点でしょうか。左官業の会社というのは、マンションなどの集合住宅や学校などの公共施設の仕事か、戸建て住宅の仕事というふうに、その会社の得意とする仕事がはっきりと分かれていることが多いのです。ですが、当社は両方手掛けることができる、それが強みでしょうね。実は当社も先代の頃はビルをメインに手掛けていましたが、私はどちらかというと住宅の仕事が好きなんですよ。ビルの仕事は、下地としての作業が多いんです。我々が作った壁の上に、タイルを貼ったり、ペンキを塗ったりしますから、完成すると隠れてしまうんですね。それに対して、住宅ですと左官の仕事が表に見えますから、よりやり甲斐を感じるんです。それで、私の代からは住宅を徐々に手掛けるようになって、今では住宅の仕事も多くいただくようになったのですよ。
吉沢 代替わり以降、お仕事の幅を広げていらしたんですね。
今城 代替わりして10年ほどになるでしょうか。残念ながら父は2年前に他界してしまったのですが、二代目として、父が残してくれた基礎の上に自分にできることを少しずつ積み重ねてきたつもりです。今後も少しずつ仕事の幅を広げていきたいと思っているんです。例えば今は建物の設計士と左官会社が直接話すことはまずありません。ですが、仕上がりの風合いなど、細かいことが分かるのは、やはり我々左官職人。ですから今後は設計する人間と職人で、直に相談や交渉ができるようになればと考えています。
吉沢 明るい展望をお持ちで、今後が楽しみですね。
今城 昔はこんなに仕事が楽しくなるとは思っていませんでした。仕事を離れても、仕上げがもっと良くならないかと常に考えているんです。石灰や土、セメント、砂など、組み合わせ次第で仕上がりが変わってきますからね。まるで仕事が趣味のようになってきてしまいました。
吉沢 ご自身の仕事に、それだけ打ち込めるのは素晴らしいことですわ。
今城 それができるのも、家族の支えあってこそです。子どもが小さい時には、仕事一筋というよりも、家庭を守っていこうという気持ちの方が強かったんですよ。実は、子どもが小学生の時は塾に行かせず、会社から帰って私自身が勉強を見ていたほど、家庭に比重を置いていたんです。けれど、その子どもも成長してくれ、今では家族が私を支えてくれている。それが嬉しいし、ありがたいですね。お陰様で、今は仕事一筋。父が残してくれた会社をしっかりと守り立てていこうと思っています。
吉沢 私も陰ながら応援しています。
今城 父、そして家族──多くの人に支えられてきた私と会社ですから、その気持ちに応えるためにも、挑戦を恐れず前進し続ける所存です。
▼“向上心と好奇心”──今城社長のインタビューを通し、この二つの言葉が浮かんだ。昼は現場、夜は事務作業をこなす忙しい日々の合間を縫って、社長は常に、より良い壁の仕上げを求め様々な材料の組み合わせを試しているという。
▼石灰や土、セメント、砂のほか、繊維、糊、顔料といった様々な材料の配合によって、壁の表情は大きく変わる。「その組み合わせを考え、試してみるのが楽しい」──そういきいきと語る社長の口ぶりからは、自身の仕事を本当に楽しんでいることが伝わってくる。
▼二代目として常に柔軟な姿勢を保ち、新しい方法を模索する社長。それは、先代が築いた基礎に対する信頼あってこそ見せられる姿だ。父親を、そして己を信じ、常に挑戦を楽しむ社長の姿に、「今城左官」の、今後の大きな可能性を感じた。