医療・介護コンサルタント
佐藤 眞鍋代表は病院再建において輝かしい実績を築いてこられたと伺っています。具体的にお聞かせ願えますか。
眞鍋 私は約30年間地元・香川県の銀行に勤務し、55歳から国から移譲を受けた公設民営の病院に出向しました。そこで、それまで赤字であった病院を翌年から黒字に転換させたのです。全面的に民間システムを導入した病院運営は全国初の試みでしたが、周囲の協力を得ながら成果を出しました。
佐藤 代表の手腕が窺えますね。赤字経営に陥ったそもそもの原因は何だったのでしょう。
眞鍋 国立施設の場合、国に守られた環境であるためにシビアな経営感覚を持ち合わせにくく、随所に問題点があってもおざなりにされていたのです。それに民間とは異なり、「顧客」や「サービス」といった意識が極めて薄かったのも原因の一つでした。たとえば、廊下に金属製の医療器具が無造作に置かれていたり、認知症の患者さんが不自然な行動をとっていても施設の者が関心を示さないことも見受けられたのです。それらは医療従事者として当然改めるべき点ですし、そんな光景を目にする度に全てを転換すべきだという思いを強くしましたね。
佐藤 改革する上で代表はまず、どのような取り組みをされたのでしょう。
眞鍋 東北から九州まで経営状態が優れている病院を訪れ、優れた病院では長期滞在し勉強しました。その他、列挙しますと(1)不満足度調査(2)海外研修(3)デンマークからコンサルタントの招聘(4)ユニットケアの導入(5)心の経営(6)CSの導入(7)癒しの空間、森の中の病院建設などを手掛け、病床稼働率を64%から100%にしました。
佐藤 具体的にどのような病院を目指されたのですか?
眞鍋 「診てもらいたくなる病院」です。まず、地域住民から求められる「認知症」「リハビリ」などを中心としたケア、予防に力点を置き、地域のニーズに合ったケア、医療を目指しました。また、福祉先進国であるスウェーデン・デンマークに行き、福祉の原点や尊厳についても勉強しました。職員のデンマーク研修の道筋もつけました。職員の意識は全く変わり、寄り添うケアや医療サービスも充実し、まさに国立時代からの脱却が図られました。
同時に院内の雰囲気改善にも取り組みました。それまでは水光熱費を節約するために廊下などの電灯をこまめに消灯していたのですが、暗い病院に患者は集まりません。調べたところ水光熱費は収入全体の2.2%程度ですし、明るい病院の方が患者さんは集まるとの観点から24時間点灯することにしたのです。また、それまでカジュアルだった女性事務職員の服装をイタリア直輸入の1着12万円するスカイブルーの制服に切り替えました。当然批判を浴びましたが、航空会社や百貨店を見てみれば納得して頂けると思います。明るい印象の人に親切に応対してもらえると、気軽に訪ねることもできるでしょう。それは病床稼働率の向上に繋がり、高価な制服代も十分賄えるのです。
佐藤 柔軟な発想で改革を進められたのですね。職員の方々の反応はいかがだったのでしょう。
眞鍋 賛同者が誰一人いない状況からスタートし、孤軍奮闘していました。皆には当初から「できない」と拒絶されましたが、経営を立て直すためだと心を鬼にして改革を断行したのです。そんな中でも医師会の方たちが医師や職員の方々に理解を促してくれ、同会の会長と副会長が私の手法に賛同し後押ししてくれたことはとても心強かったです。そして職員に対して「正しいことは何か」「職員はどうあるべきか」を明確にし、価値観の統制を図っていったのですよ。そういった取り組みを地道に続けることで、少しずつ職員たちの姿勢にも改善が見られるようになりました。応対も温かくなり、患者さんからの評判も良くなっていったのです。最終的に病院のベッドは150床全てが常に満床の状態になり、院内は和やかな空気が漂うようになりました。
佐藤 黒字に転換するだけではなく、驚くほどの改善が見られたのですね。改革が成功した後の代表の活動は?
眞鍋 5年経った60歳のときに完全にそちらの病院経営からは撤退しました。そして『PAL・MANABE』を立ち上げ、現在は日本でトップクラスの病院、福祉施設で職員の採用、教育、コンサルティング業を手掛けています。その一方で、大学での講義や、病院・福祉関係者を集めて講演会を実施しているのですよ。
佐藤 お仕事上でのやり甲斐とは?
眞鍋 正しい指導を行えばどんな組織も必ず成長していきます。銀行員時代には競争に勝つことが一番の目的でしたが、コンサルティング業に携わってからは職員のレベルアップが何より嬉しく、やり甲斐につながっています。これからの時代、病院は医療と経営を両立させ、それぞれの分野のエキスパートがともに手腕を発揮していかなければならないと思いますね。
佐藤 最後になりましたが、今後に向けての展望を。
眞鍋 現在日本では、自治体病院では80%以上、民間を含めても50%以上が赤字経営です。こうした背景を受け小規模な講演会を開催し、改革に伴う苦しみや黒字転換へのノウハウを提供しています。また、北欧の福祉先進国との交流、日本側コーディネーターとして積極的に関わっていきたいと思っています。そのため現在、講演会をコーディネートしてくれる協力者を募っており、今後そのサポートを得て、取り組みを加速していきたいと考えています。
▼慢性的な赤字経営が続いていた旧国立病院において、5年間かけて黒字経営の基盤を築き上げた眞鍋代表は、60歳を機に『PAL・MANABE』をスタートした。以来、日本でトップクラスの病院、福祉施設で職員採用、教育、コンサルティングに取り組む一方、大学で講義も行い、医療現場を背負って立つ人材を育成しているのだ。その中では「持ち味を如何に引き出すか」を念頭に置き、職員及び生徒が自発的に答えを導くとともにアクションを起こせる環境づくりを行っているという。そして代表は、彼ら一人ひとりに「患者は何を求めているのか」「より良い医療を実現するためにはどうすべきか」を考え抜き、その力を結集させるよう促すことで、崩壊が危惧されている医療現場に一筋の光を射してくれることだろう。
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