資源の安定供給で産業を支え日本と中国との架け橋となる

株式会社 JTC商事 代表取締役社長 鐘 旭宏(ショウ アキヒロ)

【異業種ネット】月刊経営情報誌『報道ニッポン』特別取材企画 掲載記事─略歴

「周囲との共存共栄のために
全力疾走で世界を駆けめぐる」
中国出身の鐘社長は、今年で来日20年になる。異国の地で自らビジネスを立ち上げるのは、いくら語学力や知識があっても容易なものではなかっただろう。そして、その事業を長年にわたって続けるのはなおさらだ。社長にビジネスに臨む上でのモットーを聞くと、「人の役に立ちたいから」とのシンプルな答えが返ってきた。そう、本来ビジネスとは利益を生み出すためだけではなく、周囲との連携、そして共存共栄が最終目的であるべきである。様々な困難を乗り越えながら国境を跨いで奮闘を続ける社長の姿からは、我々が見失いかけていたビジネスマンとしての本質が学べる。
肥料や飼料など様々な製品の製造過程で必要となる燐鉱石だが、日本では採取できずそのほとんどを輸入に頼っている状況だ。こうした背景を受けて『JTC商事』は燐鉱石を中国の独自のルートから輸入し、日本の産業界を支える一役を担っている。

【異業種ネット】月刊経営情報誌『報道ニッポン』特別取材企画 掲載記事─対談

異国の地でニーズに応えるため
ハードルを乗り越えて安定供給に奔走

藤森 まずは社長の足跡からお聞かせ下さい。

鐘 私は中国出身で、大学卒業後は2年間ほど教師として教鞭を執っていました。その後来日して日本の大学・大学院で学び、貿易商社に就職。そこで日本のビジネスについて勉強させてもらったのです。

藤森 当時から、いつかはご自分の力で起業しようとお考えだったのですか。

鐘 独立心よりも、必要に迫られてといった感じでしたね。そちらの会社の業績が傾き始め、お客様からのご要望に添えなくなるにつれて独立を意識するようになったのです。

藤森 では、御社でも貿易業を主業務とされているわけですね。

鐘 はい。当社は主に燐鉱石やけい石などの非鉄鉱産物の輸入を行っています。燐鉱石は肥料や飼料、化学製品や液晶などの製造にも使用される原料なのですが、今の日本ではほぼ採取されていません。そのため他国から輸入してこなければならず、当社は独自のネットワークを活かして中国から供給しています。

藤森 植物の肥料でリン酸が使われていると聞いたことがあります。

鐘 そうですね。その原料も燐鉱石なのですよ。家畜飼料にも添加物として1%ほどのリン酸カルシウムが加えられていることが多いのです。たった1%ではありますが、なくてはならないものですから需要は尽きません。

藤森 それだけ貴重なものだと、中国でも必要とされているのではありませんか。

鐘 ええ。燐鉱石は世界中でも枯渇が叫ばれていますので、実は中国でもここ最近輸出を制限しようという動きが高まっています。関税が高くなり、価格もどんどん高騰してきているのですよ。輸出者にも許可証が必要となっていますので、私はそれらの関係上、毎月中国と日本とを行き来している状況です。

藤森 供給がストップしてしまうと日本の産業は立ち行かなくなってしまうでしょうから、とても重要な役目を背負っておられるのですね。

鐘 もちろん大手商社さんでも燐鉱石を扱っておられますが、当社のような規模の会社が輸入をしているケースは希だと思いますね。しかし当社の燐鉱石を当てにされているお客様もたくさんいらっしゃいますので、安定した供給を続けていくことが私どもの使命だと感じています。

日中両国の長所を融合して
新しいビジネスの形を作りたい

藤森 国境を越えたビジネスに奔走されて毎日お忙しいでしょうが、社長のエネルギーの源となっているのは何なのか教えて下さい。

鐘 「日本と中国との架け橋になって、他の人にはできないことをする」という信念です。せっかく日本で学んできたのですから、それを人のために役立てたいとの思いが強いのですよ。日本には日本の、そして中国には中国の良いところがたくさんあります。それらを理解し合い、互いに手を携えていければと願っているのです。

藤森 素晴らしいお考えですね。しかし文化の違いから、ビジネスの進め方にも多少のずれが生じることもあるのではありませんか。

鐘 いいえ。ビジネスは気持ち次第です。私はいつもお客様は王様だと思っているのですよ。日本では「お客様は神様」とよく言われますが、神様よりも王様はわがままでしょう(笑)。けれどそれが当然だと思って取り組めば、どんな難題にも立ち向かっていけるのです。

藤森 分かりやすい例えですね(笑)。

鐘 王様の要求はいかなるときも絶対ですからね(笑)。しかし、それに応えていくことでお客様から信頼を寄せて頂けるようになりますから、結果的にはWIN-WINの関係が築けるのです。

藤森 周囲の方々ととても良好な関係を築かれていることが窺えます。世界的な不景気の影響はいかがですか。

鐘 貿易業ですから、やはり円高の影響は大きいですね。たった数円の差でも莫大な額の為替差損となってしまいますから、常に世の中の動きには敏感にアンテナを張っています。そうした様々な難関を乗り越えて、良質な品をお客様にお届けできたとき、そして製品となって皆様の生活に役立てていると思うと、大きなやり甲斐を感じます。

藤森 では最後に、今後の展望をお聞かせ下さい。

鐘 関税率の高まりを受けて、燐鉱石の新しい供給の仕方を考えています。資源の形で輸出入を行うのではなく、中国に工場を作って半製品の形にまで作り上げた上で取引をしてはどうかと考えているのです。お客様のニーズと、市場の動きを踏まえながら柔軟にスタイルを変えていきたいですね。

藤森 では将来的な夢とは?

鐘 引退したら故郷に戻り、学校を建設できればと思っています。これまで中国の資源という恵みを戴いてきた恩返しの意も込めて、人や社会に貢献できる事業を興したいですね。

藤森 これからも日中の架け橋として頑張って下さい。

【異業種ネット】月刊経営情報誌『報道ニッポン』特別取材企画 掲載記事─取材記事写真

貴重な燐鉱石で支えられる日本の産業

▼現在、世界で使用されている燐鉱石はアメリカ、モロッコ、ヨルダン、中国などを中心に産出されている。日本でも沖縄県で採取されていたことがあるが、やがて座礁し、輸入に頼る現状に至った。しかし輸入相手国の首位にある中国でも近年は生産量の減少から価格が上がり、さらに中国国内の肥料相場をコントロールするために100%の関税を掛けられた。これによって国際価格は急騰し、徐々に確保が難しくなってきているのだ。一般消費者には縁遠い話のように聞こえてしまうかもしれないが、昨年夏に化成肥料製品が値上げされた原因はこの燐鉱石にあると言えば、その影響力の大きさが分かるだろう。

▼『JTC商事』では、この燐鉱石を中心にけい石等非鉄鉱産物を取り扱っている。大手商社が供給ルートを牛耳る中、同社は中国国内で独自に確保したネットワークにより安定供給を保っているのだ。もちろん品質も良く、日本の大手肥料メーカーからは絶大な信頼を得ている。

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▼今回の不況は海外からの影響が大きいが、同時に日本がいかに海外とつながっているかを認識できる良い機会でもあっただろう。これを機にグローバルな視点を養い、世界との連携を強めていきたいものである。

対談を終えて
「社員の方々は週休二日でも、鐘社長ご自身はほぼ年中休みなく働いておられるのだとか。毎月のように日本と中国を行き来するだけでも大変なご苦労だと思いますが、お話しぶりからはお仕事を楽しんでおられるご様子でした。資源に乏しい日本が産業大国として成り立っているのは、社長のような方々が陰で支えて下さっているからなのですね。これからも世の中の動きはどう変わっていくか分かりませんが、志を貫き通して頑張って下さい。」(藤森 夕子さん・談)

【異業種ネット】月刊経営情報誌『報道ニッポン』特別取材企画 掲載記事─会社概要

名 称
株式会社 JTC商事
住 所
東京都台東区蔵前3-19-7 蔵前コープ202号
代表者名
代表取締役社長 鐘 旭宏
掲載誌
報道ニッポン 2009年8月号
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