吉沢 御社の創業はいつごろでしょう。
中村 『東和セキュリティサービス』は父親が昭和56年に立ち上げた会社で、私は2代目になります。父はお客様から頼まれると休日でも夜中でも駆けつける仕事熱心な人だったので、子どものころは遊んでもらえないことを不満に思っていましたね。しかし、いざ自分が同じ立場に立つと、たくさんの方から信頼されていたために、どうしても休めなかったことを理解できました。それを知って当時の気持ちを詫びるとともに父の凄さを知りましたね。
吉沢 社長は学業修了後すぐにこちらに入られたのですか。
中村 いえ、大学卒業後は議員秘書をしていました。今の警備業とは全く関係ないように思うでしょうが、どんな世界でも人脈は何よりも大切で、人を得てこそ未来が拓けてくるものですよね。政治の世界はそれが特に強いので、人がいなければ何もできないことを教わりましたし、人間関係の築き方も知ることができました。そして、27歳のときに当社に戻って修業を開始し、2年ほど前に代替わりを行った次第です。
吉沢 代替わりに際してプレッシャーもあったのでは?
中村 はい。最初は私にできるだろうかと悩みました。しかし、会社を継ぐチャンスを得られる人は少ないのですから、重圧ではなく幸福だと思わなければと考えたのです。するとチャレンジ精神が沸々と湧き、何ごとも前向きに捉えられるようになりました。また、父は仕事に対して何よりも責任を持つ人だったので、「やるべきことをやれ」と常に言われてきましたし、その言葉は今も私が行動するときの指針にしています。しかし、ただ父から学んだことを真似るだけでは意味がないと思いますので、自分なりのやり方で当社の新しい歴史を刻んでいけるように取り組んでいるところです。
吉沢 具体的にはどのようなことをしておられるのでしょう。
中村 経営者になったからといって椅子に座って指示を出すだけでは誰もついてこないでしょうし、現場に出ている人に責任を取らせるのは筋が違うと思っています。そこで、まずは自分が率先して動いて見本を見せることと、クレームが発生した場合は自分から伺って、責任は全て私が取ることを明らかにしています。最近は経営業務が増えてきましたが、時間がとれる限り現場に出るように心がけていますね。
吉沢 経営者のそういった姿勢を見ると下で働く人は安心できると思います。
中村 そうであれば嬉しいですね。それに現場に出ているのは、毎日頑張ってくれているスタッフの顔を見たい気持ちもあるんです。立場が上になると人間関係は身近ではなくなりますし、150人ほどの組織だとなかなか全員と触れ合う機会がありません。そこで現場を訪れる度に「おはようございます」と元気よく声を掛けたり、些細な相談も気軽に聞くようにしているのです。それによって一人ひとりの士気を上げて、会社の一体感も高めていければと思っています。私自身、この仕事を始めたころに先輩から声を掛けてもらうと嬉しくてやる気につながりましたし、色々な話をすることで会社に馴染むことができました。それを実践することで、スタッフたちと良い関係を築いていければと考えているのです。
吉沢 なるほど。それはスタッフにとって嬉しいでしょうね。
中村 ありがたいことに当社はスタッフの定着率がよく、長年勤めてくれている人が多いんですよ。それに一度他の会社に移った人が「ここより居心地の良いところはない」と言って戻ってきたこともあります。未熟な経営者なので不満もあるでしょうが、それでも一緒に頑張ることを選んでくれて嬉しいですね。
吉沢 やり甲斐を感じられるときは?
中村 無事に一日を終えられて、お客様から「今日もありがとうございました」と言ってもらえたときですね。安心・安全が求められる職種ですから当たり前のことをしているだけなのに、それを喜んで頂けるのは警備業ならでは。それがやり甲斐につながっているのです。
吉沢 では、今後の展望をお願いします。
中村 これまで建設現場などを中心にスタッフを派遣してきましたが、広島は新球場や新しい建物が建てられるなど、目まぐるしい変化が起きています。そこで、これまで進出していなかったそれらの分野でもお仕事を得られるようにしていければと考えているのです。そして、将来的には地元を飛び出して日本中から依頼を受けるような会社となり、警備業界でナンバーワンになることが目標ですね。もちろん課題もたくさんありますが、先代が築いてきた基盤を大切にしながら着実に問題も解決し、少しでも目標に近づけられるようにしたいと思います。
▼『東和セキュリティサービス』の中村社長がスタッフ育成の際に必ず伝えていることは“オアシス”だそう。これは「おはようございます」「ありがとうございます」「失礼します」「すいません」の頭文字で、社長はこれらの挨拶を実践することが人としての基本だと考えているのである。「現場に黙って入るのと元気よく挨拶をして入るのとでは印象が全く異なります。挨拶は物事の基本であり欠かせないこと。技術などを覚える前に人間性を伸ばさなければ良い仕事はできないと思っているのです」と語った。実際に同社のスタッフを見るとどの現場でもひときわ大きな声を発し、生き生きとした表情で業務にあたっている。この姿勢が、同社の評価を確固たるものとしている理由なのだろう。
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