三原 御社は長い歴史をお持ちだとか。
西崎 ええ。大正13年に私の祖父が『宝屋工業所』を創業しましたので、ちょうど今年で85周年を迎えます。現在は歴史と実績に培われた『宝屋工業所』を中核として、 国際社会に対応したビジネス展開を図る『タカラ』があります。そして提携先の上海に拠点を置く『上海名宝工貿』『上海皓翔商務諮詢』、ベトナム(ハノイ)に拠点を置く『ベトゴック』、日中建設経済交流協同組合の6社で『TAKARAグループ』を組織しております。
三原 85年の歴史の中でグローバルに成長されてきたわけですね。では業務内容について教えて頂けますか。
西崎 私どもは建築物に備える設備全般を手掛けていまして、グループ内で連携を取りながら設計から施工、管理、人材育成まで一貫して手掛けられるのが強みです。現場は東京エリアを中心に、インテリジェントビルから高級マンション、神社仏閣までと幅広いですね。また中国では設計アドバイザーのような形でコーディネイトを行っています。
三原 中国は北京オリンピックを機に一気に成長しましたが、その後の状況はいかがですか。
西崎 一時期ほどの勢いはないと言われていますが、それでも潜在能力は高いですね。日本をはじめヨーロッパや米国からも企業が続々と進出しており、今は市場が渾然一体となっている状況。だからこそアプローチ次第で面白い結果が得られると手応えを感じています。
三原 具体的にどういったアプローチを展開されているのでしょう。
西崎 端的に言うと、「技術の循環」を目指した取り組みを行っています。海外の人材に日本の技術やビジネスについて学んでもらい、ゆくゆくは弊社が提携している企業で活躍してもらおうという流れです。つまり技術を移転し、循環させることで互いにメリットを享受しようと考えているのですよ。
三原 技術の流出と聞くと不安を感じるのですが、日本にとってもメリットはあるのですか。
西崎 もちろんです。日本は少子化によって人的資源が確実に不足してきますから、それを補うためにも海外との連携は必要不可欠となってくるでしょう。そして海外の人材とうまく共存できる企業だけが、国際競争の中で生き残っていけるのだと思います。
ですから当社では中国のみならず、ベトナムでも同様の事業を展開する準備を進めています。ベトナム人は手先が器用で責任感も強く、市場としての可能性も高いため大きな期待が寄せられているのですよ。これまでは施工図の文化が浸透していないことがネックとなっていましたが、CADの進歩で図面作成が容易になり、日本と同等のクオリティーを実現することも可能となりました。データ通信や印刷技術も発達していますから、図面のアウトソーシングは早々に実現できると考えています。
三原 なるほど。人材育成で基盤を築けば、並行して事業展開も広がっていくわけですね。
西崎 ええ。実際に稼働している例としては、上海に立ち上げたブランドショップ「TESORO」が挙げられます。ここでは衣類から革製品まで様々な商品を扱って質の高いライフスタイルを提案していまして、もちろんベトナムでの出店も予定しています。つまり『TAKARAグループ』は「コーヒーカップから建物まで、全てをコーディネイトする企業」として世界に打ち出しているのです。
三原 建設業界の枠を飛び越えた斬新な発想だと思います。
西崎 建設業に限らず、一つの枠組みの中だけで生きていくのは今後難しくなるでしょう。本業を基軸としながら、いかに付加価値を生み出せるかどうかが勝負どころになると思いますね。それに、働く人にとってもいつまでも同じことの繰り返しでは面白くないはず。新しいビジネスを創出してこそ仕事のやり甲斐も生まれますから、社員にもできる限りチャンスの場を活かしてチャレンジしてもらいたいと思っています。
三原 社長の野心的な展望に触れれば、自ずと社員の士気も上がるでしょう。けれど、同時に社員に求められるレベルも高まるのではありませんか。
西崎 ええ。基本的な技術や理論などを体得しているのは大前提とし、その上でオリジナリティーを求めています。社員のみならず海外の学生などと接する度に思うのは、もっと中長期の展望を描く力を養ってほしいということ。目前のタスクにばかり目を奪われず、その先にどのような結果が待っているのか、そして自分自身をどう導いていきたいのかと青写真を明確に描くことが重要なのです。
三原 そのお考えが社長のポリシーのようですね。
西崎 はい。私は、ビジネスとは“仕掛け”だと捉えています。それが自分が思った通りに機能し、計画通りのラインに乗ったときには身震いするほどの達成感がありますし、長期的・かつ大規模な計画であればあるほど充実感は増します。要は、自分がやりたいと思うことをいかにビジネスに結びつけていくか。人が思いつかないようなアイデアを生み出すには一種の遊び心も必要ですし、基礎となるスキルを磨くことも大切です。私自身もその両面を研鑽しながら、多くの同志たちと面白いビジネスを手掛けていきたいと思います。
▼国内外に市場を拡大し飛躍を続ける『TAKARAグループ』の原動力は、社員一人ひとりの意識の高さにある。やる気のある者には積極的にチャンスが与えられているだけでなく、向上心を育むための社員教育ではユニークな取り組みが行われているのだとか。
▼その一つが、年に4回も行われている有名アーティストを招いての大きな社内イベント。一見関連性がないように見えることにもビジネスのヒントは隠されているとの考えから、素晴らしい芸に触れることで豊かな感性を磨こうと催されているのだ。「建設業」の枠にとらわれない柔軟な事業展開で、次世代のスタンダードを築こうとする『TAKARAグループ』ならではのワンシーンだと言えるだろう。
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