渡嘉敷 まずは社長のこれまでの歩みから伺っていきたいと思います。幼少時代はどんなお子さんでしたか。
奥田 絵に描いたようなガキ大将でしたね。暗くなるまで仲間と外で遊び、生傷が絶えない子どもでした(笑)。その後は野球に打ち込み、4番バッターとして打席に立っていたのですが、高校生のころ練習中にボールが目に当たってしまいまして。網膜剥離になってしまい、そこから人生が一転したのです。
渡嘉敷 当時は落ち込まれたでしょう。
奥田 親にもらった身体なのに悪いことをしたという罪悪感に苛まれました。けれど野球の道が絶たれたことで、その他の分野でトップをとってやろうという気持ちが強くなったのです。それで就職の際もネームバリューのある大手住宅会社に入り、朝礼でも何でも最前列に並んで、率先して知識を吸収してきました。とにかく自分の持てる力を全て出し切っていましたので、筋の通らないことがあれば相手が先輩や上司でも食ってかかっていたぐらいです。
しかし、大きな組織の一員だと目指すべき頂点が高すぎて、次第にその像がぼやけてきて。そこで思い切って、本社の社長とお会いできた機会に「私が今から頑張れば、いつかこの会社の社長になることはできますか」と聞いたんですよ。
渡嘉敷 それで、社長からの答えは?
奥田 率直に無理だと言ってくれました。そして「だったら留まる必要はない」と、すぐに会社を辞め、ユニットバスの施工をされていた親方の下に弟子入りしたのです。
渡嘉敷 大手企業を未練なく退職して、次の道へ進めるとはすごいですね!
奥田 とりあえず何か行動を起こさなければ、先へは進めませんからね。そして新しい仕事を教わりながら場数を重ねるうちに、別の職人さんたちからも誘われてどんどん技術の幅を広げてくることができたのです。その後、志を同じくする仲間と出会い、2人で当社の前身となる会社を始めました。
渡嘉敷 『さつき住設』さんとしては何年ほど前にスタートされたのでしょう。
奥田 約10年前です。その相棒が事故で亡くなってしまい、跡を受ける形で再出発したのが当社なのです。それまで私は現場専門で経営のことなど何一つ分かりませんでしたから、本当に周囲の方々に助けられたお陰で今日を迎えていると感じます。取引先さんをはじめ、長年お付き合い頂いているお客様、そしてスタッフなどの仲間たちが力を貸してくれたからだと、本当に感謝の一言です。
渡嘉敷 では現在のお仕事内容について教えて下さい。
奥田 アパートやマンションの管理を中心に、住宅設備の総合メンテナンスを行っています。また同時に、家主様のご依頼に応じてリフォームや増改築なども手掛けており、ハウスクリーニングからクロスや畳の張り替え、水道・電気・空調工事まで幅広く対応しているのです。
渡嘉敷 同業他社も数多いと思いますが、御社独自の特徴とは?
奥田 野球で言えば、タイムリーが打てることですね。つまり、お客様が求めておられるときに、すぐに対応できるのが当社の売り。お電話を戴いたらその足で伺いますから、24時間・365日休みはありません。速い・安い・綺麗、の三拍子が揃ってはじめて仕事と呼べると思っていますので、4人のスタッフにもプロ意識を高く持つよう徹底させています。
渡嘉敷 お話を伺っていますと、お客様のことを大切に思われていることが伝わってきます。
奥田 ええ。昔は経営者として上を目指すばかりでしたが、現場でお客様から「ありがとう」と言って頂けたときに、仕事とはお客様に喜んでもらうためにするものなのだと実感したのです。以来、その声が聞きたいと思うと、どんなことも頑張ってくることができました。固定客の方々とは仕事を離れた場でも親交が深まってきていて、普段から電話をしたり、体調が悪いと伺ったら様子を見に行くこともあるのですよ。お付き合い下さっている家主様は年配の方が多く、息子のように可愛がってくれるのです。だからリフォームなどのご相談を受けたときでも、実際の様子を見せて頂いてその必要がないと判断すればそのままお伝えしていますね。経営者としては駄目なのかもしれませんが(笑)。
渡嘉敷 そうした姿勢がお客様からの信頼につながっているのだと思いますよ。最後に、今後の展望をお願いします。
奥田 世の中は不況と言われていますが、それを意識しすぎると気持ちまで落ち込んでしまいますし、前進することだけを考えていきたいと思います。そしてお客様と同じぐらい、スタッフも大切にしていきたい。いつまでも私の下に収まっているだけでは面白くないでしょうから、個々の可能性を伸ばせるようなフィールドを用意していきたいですね。その上で、独立を目指す者がいれば全面的に協力してあげたいですね。私も彼らに負けないよう、これからも技術と人間性を磨き続けたいと思います。
▼奥田社長の名刺には、社名よりも大きな文字で「拓道」と記されている。道を拓く──この2文字には、社長の深い思いが込められているのだ。
▼「拓道というのは、当社の前身を興したときの相棒の戒名なのです。彼の存在はとても大きく、私は彼のお陰で周囲の人々に感謝する気持ちが持てるようになりました。同志の志を引き継ぎ、これからも忘れないようにしていきたい」と社長。お客様やスタッフを大切にしながら仕事に打ち込む社長の胸には、友への熱い思いがあったのである。
▼同時に社長は「不況だから、と何でも景気のせいにしたくない」と語気を強める。たとえ売上が伸び悩もうとも、気持ちまで落ち込んでしまうと全てに悪影響が出てくるというのだ。そんな意が表れてか、『さつき住設』は苦況にある業界の中でも堅調な成長率を維持し続けており、手が回らないほどの忙しさなのだとか。前向きに、そして力強く前進し続ける社長の姿は、周囲をも元気づけているに違いない。そして、多くの人の思いを背負いながら、新しい道を切り拓いていってくれるはずだ。
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