■依頼者に尽くす姿勢を父らから学ぶ
司法書士の父と行政書士の伯父、親族らが力を合わせた合同事務所を見て育ち、「人の役に立つ仕事に携わろう」と、弁護士を目指したという松藤隆則氏。学生時代は朝から晩まで勉強に励むと同時に、仲間と過ごす時間も大切にした。真の問題解決には、知識だけでなく、人間関係も必要だと考えていたからだ。机上の空論では問題は解決しない──父らから学んだその心得を胸に、氏は父らと同じように粉骨砕身して依頼者に尽くしていく構えだ。
村野 まずは歩みからお聞かせ下さい。
松藤 父は司法書士として、親族らと共に、京都でも有数の合同事務所で活躍しているんです。土日祝日と関係なく、次々と訪れる相談者に親身になって応えている父らの姿を幼い頃からずっと見ていました。その影響もあって、将来は人の役に立つ仕事をしようと決めていました。そして、高校生の頃には明確に司法の世界を目指すようになったのです。その後、京都大学法学部で勉強を重ね、卒業したその年に司法試験に合格しました。
村野 裁判官や検察官などの職業もあるなか、弁護士を選ばれた理由は?
松藤 それぞれがやり甲斐のある仕事だと思いますが、依頼者と直に話をして、現場を走り回れるのは、弁護士が一番だと感じたのです。裁判官だとどうしても現場が裁判所に限られてしまいますし、検察官も扱う案件に限りがある。その点、弁護士はビジネスの世界でも必要とされることが多い。様々な世界で、いろいろな事に挑戦したいという思いが強かったですね。
村野 最近では司法をテーマにしたテレビドラマがヒットしたりと、敷居の高いイメージも随分と変化してきたのでは?
松藤 そうですね。それはいい傾向だと思っています。私自身、“敷居の低い弁護士事務所”を目標としているのです。私は以前、弁護士が90人ほど在籍する大手の弁護士事務所に勤務しておりましてね。そこでは複数の弁護士がチームを組んで案件に取り組みます。専門的な案件に関わることができ、とても勉強になりました。ただ、必然的に扱う案件は大きなプロジェクトが多く、企業のクライアントが多かったのも事実です。私は中小企業や個人が抱える問題解決にも他のスペシャリストとチームを組んで取り組みたいと考え、独立を決意しました。そうした目標を持って独立したからには、誰もが気後れせずに利用でき、かつ勤務時代の経験を活かして専門的な事案にも対応できる事務所でありたいと考えています。
村野 こちらではどのような相談を受けておられるのでしょう?
松藤 民事再生などの事業再生、不動産紛争、一般民事の相談を主に扱っています。一例を取り上げますと、九州のある会社では、経営が破綻して民事再生の申請を行っていたところ、従業員が退職金を出資して立ち上げた新会社に経営を譲渡することになったのです。非常に画期的な取り組みで、私も法律のアドバイスを精一杯させていただきました。ただ、新しいリーダーを擁立し、新たな経営体制を確立するのに苦労したという面があります。どんなに形式が整っても、リーダーが存在しなければ新しい会社として生まれ変わることはできません。そのとき、最終的に事業再建を実現するのは当事者の力しかないと実感しました。と同時に、法律のアドバイスを徹底することが、弁護士としての役割だと再確認できたのです。事業再生にはそうした難しさもありますが、現場で依頼者と共に問題解決に向けて取り組めることに、大きなやり甲斐を感じています。
村野 関西のみならず、九州の現場でも活躍されているのですね。毎日がお忙しいのでは?
松藤 現場に出てこそ学べることの方が多いので苦ではありません。むしろ我々若手こそが、どんどん現場に出てたくさんの方と話をして多くのことを吸収するべきだと考えています。
村野 2009年から新しいスタッフの方を迎えられたとか。
松藤 ええ。2008年に事務所を開設してからずっと一人でやってきましたが、出身事務所で経験を積んできた浅田和之弁護士を迎え、4月からは行政書士をもう一人迎えることができました。浅田弁護士はかつての同僚で、気心が知れているため、お互いのスキルを高めながら仕事に臨めると確信しています。
村野 弁護士として、また所長として新しいスタートを迎えられたのですね。
松藤 今後、スタッフが増えたとしても、私はトップダウンの組織をつくるつもりはありません。専門知識を持った者や、人の役に立ちたいという熱意を持つ人材が集まり、それぞれの能力をフルに発揮することで、問題解決に取り組める専門家集団でありたいと考えています。共通の意識を持ったチームづくりが私の理想ですね。それは、当事務所の中だけとは限りません。司法書士や行政書士、税理士など他のスペシャリストと連携できれば、活動の幅はより広くなり、かつ専門性も高められることでしょう。大きな輪を広げ、強靱なチームを作ることが最終的な目標ですね。
村野 さらなる活躍を期待しています。
▼世界規模の不況により、民事再生やM&Aの申請手続きが増えているという。『京阪藤和法律事務所』の松藤弁護士のもとにも経営難に陥った経営者から、会社にとっての最善策を求める相談が多く寄せられている。かつては再建方法のひとつだった債権買収などは、どの企業も自身の会社を守るのが精一杯なためか、効果的ではなくなり、事業再生の問題は一層厳しい局面に立たされているという。当然、相談件数は多くなっており、まだ開所から1年という同事務所にも、すでに100件近い相談が寄せられているとか。中には数年にまたがって手続きが必要な案件もある。そうなると、法務だけでなく、税務に関する知識も必要となるが、ひとつの事務所ではキャパシティーの限界がある。そこで、氏は、より多くの相談により専門的に応えるため、税理士や公認会計士、司法書士など他分野のスペシャリストとの連携を目指す。現状の法制度では、明確な法人組織を立ち上げることは難しいが、松藤弁護士なら、枠にとらわれない最強のチームを生み出してくれるだろう。
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