三ツ木 阿部社長が「横川食販」の社長職に就かれたのはいつでしょうか。
阿部 2003年です。それまでは米の大手卸売会社に24年に亘って勤めておりました。
三ツ木 どういった経緯で現職に就かれたのでしょう。
阿部 勤務時代の取引先が当社だったんですよ。先々代からお誘いを受け、いろいろ考えた末に引き受けました。
三ツ木 立場も職場も変わり、当初は戸惑われたでしょう。
阿部 いえ、業務内容も社員もよく知っていましたので、それほど違和感なくとけ込むことができました。ただ、古い体質が残っていましたので、その点だけは改革していくことにしたのです。
三ツ木 古い体質とは?
阿部 ご存じのように米の流通は、国の全量管理の下で、流通量や価格が統制されてきました。それが食糧管理法の規制緩和により自由化され、激しい競争が生じるようになったわけです。今まで国に保護され、待ちの営業(電話待ちの営業)しかしたことのなかった社員に様々な指導を行い、攻めの営業(ご用聞き営業)をするよう徹底しました。
三ツ木 具体的にはどのような改革を?
阿部 まず当社独自のコンピューターシステムを導入して、顧客管理・営業管理・事務の効率化を図り、同時に営業拠点を1ヶ所に集約するなど合理化を進めてきました。
三ツ木 時代を見据え、新たな方向性を模索されたのですね。
阿部 幸い当社は、米などの食品販売と、ガス・灯油などの燃料販売が柱になっているため、昔で言う「ご用聞き・配達」のスタイルは非効率的でも残しました。商売の基本はなんと言っても、お客様と直接お話しし、必要な物を必要な時に直接お届けする、これに尽きますからね。規制緩和によってスーパーなどでも米が販売されるようになりましたが、価格で対抗することは避け、独自のサービスや品揃えをしていくことで差別化を図ろうと考えたのです。そうした中で当社独自の「漢熟米」は主力商品となっており、多くのお客様からお求めいただいています。
三ツ木 どのようなお米なんですか。
阿部 米のうま味がしっかりと詰まっており、米・食味鑑定士協会の全国米食味コンクールで2年連続賞をいただきました。説明するよりまずは食べてみてください。一口食べただけでその味の違いははっきり分かりますよ。
三ツ木 (炊きたての「漢熟米」を口に含んで)むむ! これは! とても風味が良いですね! 一粒一粒に適度な噛みごたえがあって美味しいですよ。
阿部 粒がしっかりしているから、粒と粒の間に空気が入り、口当たりがいいんです。そのため、お寿司屋さんからご注文を受けることが多いんですよ。寿司を握った時にべとつかないし、口に入れるとぱらっとほぐれ、ネタの味を引き立てながら米本来のうま味も味わえる。
三ツ木 なるほど。その特徴の秘密は?
阿部 土が違うんです。「漢熟米」の「漢」は漢方薬の漢。100種類以上の漢方薬の煎じ粕と糠を混ぜ、1年間熟成させた天然堆肥を田んぼに使用しています。漢方薬の薬効によって通常の米より稲の根が太く丈夫になり、収穫時期まで枯れることなく旨み成分をぐんぐん吸い上げ米に送り続けるのです。この土で育つ稲は害虫にも強いようですよ。化学肥料も一切使用せず、米の味を落とす追肥は行いません。追肥をすれば収穫量の増加は見込めますが、逆に味わいは落ちてしまうのです。言わば「漢熟米」は自然界のものだけで作られた「天の恵み」なんですよ。
三ツ木 どおりで美味しいわけだ。ですが、それだけこだわりを持って育てておられれば、米の収穫量は限られてくるのではありませんか。
阿部 そうですね。しかし私共も生産者の方々も、この米の良さを認めてくださる消費者に供給する分だけ生産できればよい、と考えております。そもそも生産者の方々だって、収穫量を増やすためとはいえ、農薬や化学肥料を大量に使う育て方は本意ではないんですよ。自分自身農薬を浴びたくないし、子どもや孫の口に入る物は安全でなくてはいけない。ですから手間暇がかかり、収穫量は落ちても「漢熟米」を作っているのです。そしてその価値観を共有できる消費者の方々にも食べていただきたい。「漢熟米」には、生産者のそうした信念、人柄や生き方までもが反映されているからこそ、美味しいのだと感じています。今後も「漢熟米」という美味しいお米を通して、そんな生産者の想いを伝えていくつもりです。
三ツ木 これからもぜひ皆様で、安全・美味な米を供給していただきたいと思います。本日はごちそうさまでした(笑)。
漢方薬の煎じ粕と糠を熟成させた天然堆肥を使い、丹誠込めて作られている「漢熟米」。なるほど、言われてみれば薬草は害虫の忌避効果もあるし、滋養強壮にもよいわけだから、稲の発育に多大な効果をもたらすだろうことは想像できる。
最初にこの育成法を思いついたのはある漢方薬メーカーで、薬草の煎じ粕が産業廃棄物として捨てられているのを知ったことがきっかけになっている。いくら廃棄物といえども煎じ粕には多くの薬効が残されているに違いない。そもそも産業廃棄物として捨てられるものだからコストはかからない。それを農業に活用すれば、農薬を減らし、生命力の強い稲を育てられるのではないか──そこからスタートした取り組みは、その後試行錯誤を重ね、天然堆肥「ペレット大地」が作られた。そしてさらに、安全で美味しい「漢熟米」が生まれたのである。
飲料水メーカーでは、お茶やコーヒーの煎じ粕を燃料として再利用する取り組みが行われている。こうした「循環型社会」は地球にも優しい。そう考えれば「漢熟米」の生産により、多くの人がその恩恵に浴することになる。
横川食販 株式会社
有限会社 大地米