村野 「清水寺」についてお伺いします。
圓藤 当山は平安時代初期の807年、弘法大師により開山されました。御本尊の十一面観音は「清水の観音様」と呼ばれ、“子育て観音”として地域ではよく知られておりましてね。子授祈願をはじめ、厄除けや縁結びなどのご慈悲を垂れると伝えられています。
村野 平安時代からですか……時の流れに思いを馳せると、受け継ぐことの大切さを感じます。寺の起こりについてもう少し詳しく教えていただけますか。
圓藤 はい。「清水寺縁起」によりますと、弘法大師が当地の竹で子育て観音の小像を彫り、小児の病を加持したことからお話ははじまります。その後、御本尊であるその観音様はどこかに行方不明となってしまったそうですが、慈覚大師が竹やぶに光る筍を見つけてお経を唱えたところ、筍が割れ観音様が現れました。慈覚大師は観音様のお告げにしたがい、十一面観音の仏像を刻み、その胎中に御本尊をおさめ、お堂を建てて安置したと伝えられています。そして、当地から清水が湧き出るため、「清水寺」と称した、と……。御本尊は33年に一度ご開帳しており、最近では2006年11月2日から5日にかけてご開帳を行いました。私は34世住職として、檀家様方の法要や仏事に携わっております。また、子育て観音のご慈悲のもと、「清水保育園」の運営も手がけ、園長を務めさせていただいています。さらに、当寺を利用して子育てに関する活動も行っているんですよ。
村野 具体的にお聞かせ願えますか。
圓藤 はい。「清水保育園」で培ったノウハウを活かし、“子育てひろば「おひさま」”という子育て支援センターを開設し、活動しています。保育園から離れ、「清水寺」の母屋と本堂を開放し、保育園や幼稚園に入る前のお子さんとそのお母さんが、気軽に訪れてお友達との交流を深めるための場としているんですよ。
村野 現在は人とのつながりが希薄になっていると言われます。ご住職はそういったことを実感されますか?
圓藤 はい。残念なことに、少子化で孤立するお母さんが増え、近隣でも虐待の話を聞くことがあります。ですから私どもは、寺という場を交流の場として利用し、その中で人とのつながりを築いていただきたいと願っているんです。お母さん同士の交流以外にも、季節ごとにイベントを主催してきましたが、その中から母親たちによるサークルなども生まれています。ここ2年ほどで活動が一層活発になり、大変嬉しいですね。子育て世帯が減少していますから、お友達がいなければ引きこもりがちになるでしょうし、ストレスなど精神面でもよくありません。そういった状況を少しでも軽減するのに貢献できればと思うんですよ。
村野 核家族化が進んだ現代社会では、住職のように積極的に活動される方が、ますます必要とされるでしょう。
圓藤 私も、地域のために役に立ちたいと心から思います。母親が社会から孤立してしまうと、子どもは母親から離れて遊べなくなり、自由に行動する、自然の中で遊ぶ、いろんなことに挑戦するといった機会が少なくなります。ですから私どもでは「森の保育」を実践し、私自身も「千葉県森の保育研究会」の活動に取り組んでいるんです。週に一度くらいの割合で、子どもたちと田んぼや森に出かけるのですが、子どもたちは実に奔放に動き回り、いろいろなことに興味を持ちますね。最初こそ、服が汚れたり小さなけがを心配する親御さんもおられましたが、今では理解を得られたようです。
村野 私の子ども時代は、服は汚れて当たり前、手足の生傷も絶えませんでしたよ(笑)。今の子どもはそういった体験があまりなく、かわいそうな気がします。
圓藤 そうですね。ある程度の体験がなければ、危険を察知し、自分を守ることができません。そういった点で、「森の保育」は有益ですね。自然とのふれ合いの中で、子どもたちは少しずつ成長していきます。子どもたちの変化を感じ取るからこそ、親御さんたちは「森の保育」を支持してくださるのでしょう。
村野 現在保育園には、何名の職員の方がおられるのですか。
圓藤 職員は35名ほどおり、現在は220名の園児が元気に通ってくれています。「清水保育園」は、「清水寺」の「清水子育観音」を母体として開園され、50年を越える歴史を持つようになりました。少子高齢化が進む中、これだけ多くの子どもさんをお預かりできるのは本当に嬉しいこと。かわいい子どもたちから毎日元気をもらっていますよ。
村野 今後はどういった活動を?
圓藤 私の一番の目的は、子どもを中心としたコミュニティーづくりです。地域社会のつながりが希薄になっている現在では、子どもたちに注意する大人も少なくなりました。当たり前の人間関係を持つことが難しくなっているだけに、寺と保育園と“子育て観音”を中心に置いた地域づくりを、ぜひとも進めたいのです。ビジョンを広げ、周囲の協力を得て充実した活動を行いたいと思います。
村野 本日はありがとうございました。
▼圓藤住職が大切にしているのは、「気はながく 心はまるく 腹たてず 口つつしめば 命ながかれ」という言葉だ。これによって常に自分自身を律しつつ職責を果たし、幼児教育や地域活動にも積極的に取り組んでいる。
▼誰しも自分に不都合なことは人のせいにしてしまいがちだが、結局のところそれは逃げることでしかない。住職は常に、都合の良いことも悪いことも、すべてを正面から受け止め、努力することで結果を出そうと努めている。「清水寺」の後継者となるため、この地にやってきた住職。母親の縁戚とはいえ知らぬ土地を訪れたとき、心には不安もあったことだろう。しかし、地域の人々は住職を温かく受け入れ、不安をぬぐい去ってくれたという。その優しい心に強く感じ入った住職は、修行・勉強に勤しみ、寺を守る者としての心構えをつけていく。本当の意味で地域に溶け込むまでには、相応の時間が必要だったそうだが、そんな住職の経験こそが、子育てに悩む親たちへの生きた手本として活かされていくのだ。
天台宗 弘冨山 福聚海院 清水寺
清水保育園