布川 まずは先生の歩みから伺いたいと思います。弁護士になろうと志されたのは、いつごろですか。
正野 生来、人に何かを言われて動くのではなく、自分でものごとを判断し、行動したいという意志が強かったため、自然と弁護士の道を目指すようになりました。具体的に勉強しだしたのは大学4年生の末からでしたが、二度目の挑戦で司法試験に合格し、その後は弁護士の共同事務所でしばらくお世話になっていたのです。
布川 いわゆる「イソ弁」という形ですね?
正野 ええ。「イソ弁」とは居候弁護士の略で、ベテランの先生の下について経験を積む新人弁護士のことを指します。私は独立した先生が集まって経営されていた共同事務所に入り、3名の先生の下で学ばせて頂きました。銀行関係の問題を得意としておられる先生や、多くの企業と顧問契約をされている先生、個人の顧客を対象とされている先生と、それぞれに特長をお持ちでしたから、私は幅広く経験を積ませて頂けたのですよ。その後、私も経営パートナーとして独立し、8年間ほどそちらで業務に携わっておりました。
布川 イソ弁から経営パートナーに抜擢されるのは、珍しいことなのではありませんか。
正野 一般事務所ではなくはありませんが、そんなに多くはないと思います。けれども優遇してもらっていた分、その後事務所が解散することになったときは大変だったのですよ(笑)。個人事務所を立ち上げるのは予定外のことで準備もしていませんでしたので、全てが慌ただしく、嵐のような毎日でしたね。それに当時は専属で顧問契約を結んでいる顧客もいませんでしたので、先行きに不安も感じたものです。
布川 しかし今では多くの方々から頼りにされていて…この実績こそ、先生の実力と対応がいかに素晴らしいかを物語っていますね。
布川 先生が担当されている顧客は、企業が中心なのですか。
正野 いえ、逆に個人の依頼者が多いですね。たとえば労働問題などの場合、企業対個人となると、どうしても個人の方が立場が弱くなりがちです。だからこそ私は企業側ではなく個人側に立って、正当な意見を守りたいと思うのですよ。企業と顧問契約した方がはるかに経営効率は良いのでしょうが、私は信念を曲げることはできません。それに個人の場合、依頼者に結果に満足して頂けるとそこから知人を紹介して下さるなど輪も広がっていきますので、今後もこのスタイルを固持していくつもりです。
布川 弱き者の盾となって守る、というのが先生のポリシーなのですね。
正野 ポリシーと呼べるほど格好の良いものではありませんが(笑)、ただ、どんなときも自分が正しいと思ったことはとことん筋を通してきましたね。たとえ周囲からどんなに批判を受けようとも、依頼者の正当な声を守り抜きたいと思っています。
布川 そんな先生だからこそ、多くの方が頼って来られるのでしょう。しかし、「弁護士に相談する」というのはまだ多くの人にとって敷居が高いかと思うのですが、実際はいかがですか。
正野 確かに欧米に比べると、日本ではまだ弁護士が市民の身近な存在になっているとは言えないでしょう。実際の相談内容にしても、本当に手に負えない状況にまで追い詰められてから来られるケースが多く、「もう少し早く来て頂けていたら…」と思うことがしばしばあります。収拾がつかない事態にまで陥っていると弁護士に出来ることも限られてきますし、もっと予防的な感覚で事前に相談する習慣が社会全体に根付いてほしいですね。
布川 しかし弁護士費用は高額なイメージがありますから、相談したくても躊躇してしまうのが本音だと思います。
正野 困窮極まりない事態で、法廷で複雑な手続きを踏まなければならない場合はその分の費用もかさみますが、事前のご相談などですとさほど心配される必要はありません。それに、ご相談時期が早ければ早いほど打てる手も多く、費用もより少なくて済み、より良い結果を導くこともできるのですよ。
布川 なるほど。これは多くの人に知ってもらいたいですね。では最後になりましたが、今後のビジョンについてお聞かせ願います。
正野 扱う事件が全て思い通りに運ぶとは限りませんから、今後のビジョンを立てることは非常に難しいですね(笑)。私は経営を安定させるためとか、利益を得るために依頼を受けることはありませんから、いつも経営面では苦労が絶えないのですよ。けれども、誰かが私の助けを必要として下さる限りは、全力を尽くしてお役に立ちたいと思います。ですから今後も今まで通りのペースで、己の道を歩んでいくのみですね。
布川 是非その精神を、後進の弁護士たちにも伝承していって下さい。本日はありがとうございました。
▼昨今、日本でも犯罪の低年齢化や凶悪化が進んでいる。そんな中で被疑者を弁護する弁護士が矢面に立たされている場面もしばしば見かけられるが、私たちはそれを先入観だけで判断していないだろうか。特に世間の注目を集める刑事事件などの場合、犯罪の側面しか報道されずに全ての真実が伝えられないことも多いという。様々な社会構造の歪みがこうした事態を引き起こしているのだが、情報の受け手である我々市民も全てのニュースを鵜呑みにするのではなく、自分の力で情報を取捨選択しなければならない時代が到来していると言えるだろう。犯罪被害はいつ、我が身にふりかかってくるか分からない。そのときに冷静な対処ができるよう、普段から時勢を見る目を養い、ときには地域の弁護士さんに相談しながら現代社会を生き抜いていきたいものである。
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