渡辺 「山懸工業」では、建設業の中でも主に鳶の仕事を手掛けておられるそうですね。工藤社長はいつ頃この世界に?
工藤(敏) 20歳の頃に鳶職人の修業を始めました。若い頃にやんちゃをしていた方が、颯爽と現場を駆けている姿に憧れて、「自分もあんな風になりたい」と鳶の世界に入り、一生懸命修業に励みました。勤めていた会社には10年ほどお世話になり、貴重な経験を積むことができましたね。その中で次第に「自分の力で始めてみたい」と思うようになり、妻の恵美に相談したところ、応援してくれまして。思い切って独立し、「山懸工業」をスタートしたんです。
渡辺 独立に際して、奥様の後押しがあったことは心強かったでしょう。実際に始められていかがでしたか?
工藤(敏) 私を含めた3人で始めたのですが、最初は仕事がなくて苦労しました。でも、勤め時代にお世話になった取引先の方が私のことを覚えていて下さり、徐々に仕事を回していただけるようになったんです。勤務時代に培ってきた人脈に支えられ、改めて人の繋がりのありがたみを知りました。もちろん職人はまず技術力ありきですから、仕事の仕上がり如何で次の仕事をいただけるかが決まります。私という人間を信頼していただいた恩に報いるためにも、一つひとつの仕事を確実に仕上げてきました。そうして徐々に当社の存在が知られるようになり、経営を軌道に乗せることができたんです。
渡辺 揺るぎない信頼関係を築くことは容易ではないと思います。誠実な姿勢で臨まれた成果が実を結んだのですね。
工藤(敏) ええ、お陰様で法人化を果たすこともでき、自社スタッフと協力業者を合わせると、約50名の大所帯になりました。法人化したことによって、スタッフたちの職場環境を整えることもでき、頑張ってくれている皆に還元できていることが嬉しいですね。
渡辺 ところで、奥様からご覧になって社長はどんな方ですか?
工藤(恵) 私は事務仕事を手伝っているのですが、現場は男の世界。仕事の話をしている時の主人は真剣そのもので、声を掛けることもできません。普段は温厚な人柄ですが、一度現場に立つと、鬼気迫る迫力に圧倒されます。
渡辺 現場に一歩足を踏み入れると、男の顔になられるのですね。
工藤(敏) 確かに現場ではスタッフに厳しく接しています。私どもは、高所での足場組立だけでなく、重量機器据付も行っており、真剣勝負で挑まなくては、大事故に繋がりかねません。私にとって、スタッフは大切な財産ですから、彼らの安全を守ることが上に立つ私の使命。厳しくするあまり、時には手を出してしまうこともありますが、私の気持ちは彼らに伝わっていると信じています。
工藤(恵) 仕事中はスタッフに厳しい主人も、一日の仕事が終わると、スタッフと家族のような付き合いをしているんですよ。皆で食卓を囲み、酒を酌み交わす姿を見ていると、私も嬉しくなります。私が皆の食事を用意することもあるのですが、残さず綺麗に平らげてくれる食べっぷりが気持ちよくて(笑)。大家族のお母さんになった気持ちで腕を振るっています。
渡辺 随分と賑やかな食事になりそうですね(笑)。そうしたコミュニケーションが、社内の雰囲気を良くし、結束力を高めているのだと思います。
工藤(敏) ありがとうございます。当社の特長の一つに、元気の良さがあります。当社のヘルメットには、この地域の方言で「がんばろう」という意味の、「がんばっぺ!」という言葉を書いています。作業中にしんどくなってきたら、皆で大きな声で「がんばっぺ!」と声を掛け合うんです。そうすると、何だか楽しい気持ちになって、やる気が湧いてきます。周囲の方から「山懸工業さんは元気があって良いね」と褒めていただいており、嬉しい限りですね。良いお客様、良い仲間に恵まれている今の環境を大切にし、今後は次世代の育成にも注力する予定──合い言葉は「がんばっぺ!」です。
▼鳶職は高所での作業になるため、危険と隣り合わせの仕事である。ましてや「山懸工業」は、重量機器の据付を得意としており、わずかな気の緩みが大事故に繋がる恐れも。だからこそ、工藤社長は現場の安全管理には徹底した指導を行っているという。スタッフを大切に思うからこそ、心を鬼にして厳しく接するのだ。
▼最近の若者は忍耐が足りず、すぐに逃げ出してしまうと言う人が多いが、同社スタッフには、その言葉は当てはまらない。社長の叱咤激励にしっかり応えながら、緊張感を持って仕事に臨み、着実にステップアップを重ねている。また、彼らの元気の良さは周囲から好評で、しんどい時ほど大きな声を掛け合う姿は実に勇ましい。社内の高いモチベーションが良質な仕事に繋がり、同社の歩みを確かなものにしている。
【新事務所】
茨城県神栖市下幡木字三嶋928番4
(2008年10月移転予定)
足場組立・解体工事
重量機器据付・解体工事
鋼構造物工事
板金・保温工事
建築物・鉄骨塗装工事
一般請負