■物作りの楽しさを教えてくれた「コンピュータ」
現在、コンピュータグラフィックスを描くプロフェッショナルとして目覚ましい活躍を続けている鬼頭社長だが、意外にも少年時代は、粘土での造形や工作が苦手だったのだとか。「そんな自分でも、コンピュータ上では何かを作ることができる」そう考えたのがコンピュータに興味を持ったきっかけだ。アナログの世界もデジタルの世界も、物作りの楽しさには変わりがない。
渡辺 御社ではコンピュータシステムの開発を主業務となさっているそうですが、鬼頭社長がコンピュータに興味を持たれたのはいつごろでしょうか。
鬼頭 中学生のころですね。当時は今のようなパーソナルコンピュータはなく、コンピュータと言えばとても高価なもので、私の家にはありませんでした。友人の家にあったので、それを触らせてもらったことから興味を持ったのです。とはいえ、当時はコンピュータゲームに夢中でしたが(笑)。
渡辺 では、大学で情報処理などを専攻なさったのですね。
鬼頭 いえ、コンピュータはあくまで趣味ととらえ、それを職業にしようとは思っていませんでしたから、大学では化学を専攻しました。ただ、その傍らでパソコンを初めて購入し、知識を増やしていったんです。論文等は全て文書作成ソフトや表計算ソフトを用いて書いておりましたし、複雑なプログラムを組んだこともあります。また、教授に提案して研究室内のネットワークを構築したことがあるんですよ。
渡辺 今でこそどのオフィスでもネットワーク化されていますが、大学にも未整備だったとなると、当時としては珍しかったのでしょうね。
鬼頭 ええ。研究室の「印刷マシン」はデータを持ち込んでプリントアウトするもので、研究発表の時期が近づくと、マシンの前に長蛇の列ができていました。そこで私は配線経路を考え、各自の席からプリントアウトできるシステムを設計して予算も見積もったんですよ。その提案が大学に認められ、研究室内に印刷のためのネットワークを構築することができました。それが自信につながり、卒業後はソフトウエア開発会社に就職したのです。
渡辺 入社当時から独立を考えておられたのですか。
鬼頭 いえ、そうではありません。在職中、あるビッグプロジェクトを任されたのですが、進めていく中で、会社の提示する人員や経費では到底実現できないことに気付きました。それで再三、見直しを要請していたのですが聞き入れてもらえず、ついには精神的にも肉体的にも疲弊して退職を決意しました。その後、しばらくは休養していましたが、ある時、前勤務先から仕事の依頼がありまして、フリーという立場で請け負うことにしたのです。さらに他社からもそうした依頼が続いたため、勤務時代の後輩であった和田を誘い、会社を設立した次第です。
渡辺 それはいつごろですか。
鬼頭 2006年の10月です。当初は2人でしたが、現在は役員やスタッフを含めて8人になりました。
渡辺 短期間でずいぶんと成長されましたね。好調の要因は何だと思われますか。
鬼頭 和田も技術者で、前勤務先からいくつか仕事を請け負っていましたので、最初から仕事が途切れなかったことが大きいですね。また、同じ技術者でも私はコンピュータグラフィックスが専門、和田はデータベースが専門ですので仮にどちらかの仕事が途切れても、会社としての収入は途絶えることがありません。その安定感が当社の強みでしょう。もっとも、これまでどちらの分野も受注が途切れたことはありません。
渡辺 社長はもちろん、和田専務も優秀な技術者でいらっしゃるのですね。
鬼頭 和田との付き合いはもう13年くらいになりますね。彼が新人のころには私が指導をしていました。仕事のパートナーとして優秀であることは言うまでもありませんが、私にとっては飲み友だちでもあり、旅行仲間でもあり、プライベートにおいても良き理解者なんです。
渡辺 そんなご友人がいらっしゃって羨ましいです。では最後に、今後の展望をお聞かせください。
鬼頭 私は長期的な計画は具体的にしないようにしているのです。具体的な目標があるとそれに拘束されてしまい、自由な発想ができなくなりそうですから。また、当社には営業スタッフがいないこともあり、数字的な目標も立てる必要がありません。それより今できる範囲で、先が見通せる範囲で、私たちにできるベストを尽くしていきたい。お客様のニーズにぴったりと合うものを一つ一つ作り上げていくこと、そして優秀な人材を育成していくこと、それが当面の目標です。
渡辺 これからも社会に役立つシステムを開発していってください。
▲鬼頭社長のパートナー、和田専務を交えての記念撮影
▼今やパソコンは我々の生活において「必需品」とも呼べる存在になったが、未だパソコンが苦手、という人も中にはおられよう。そこでコンピュータのプロである鬼頭社長に、「パソコンと上手に付き合うコツ」を聞いてみた。
▼社長曰く、パソコンは車と同じ。あくまでツールに過ぎず、例えば車なら買い物をする、ドライブをするといった目的があって初めて有効活用できる。だから、まずはパソコンを使うための「目的」を持つこと。そして目的を持ったら、怖がらずに使ってみることが大事だ。「しょせん、パソコンは道具にすぎません。難しいことを考えずに、慣れるまで触ればいいんです」と社長は言う。慣れてくれば必然的に一つの物が完成し、一つの完成があれば、そこに楽しさ、達成感、愛着というものが生まれると。
▼実はこれ、鬼頭社長が自社のスタッフを育成する際に用いている、人材育成法なのだ。もちろんパソコン初心者と専門家育成ではレベルが格段に違い、目的もより高度だが、基本は同じだと社長は言う。要は習うより慣れろ、そして好きこそ物の上手なれ、なのである。ぜひお試しあれ。
東京都中野区上高田3-39-13
山新新井薬師駅前ビル6F