布川 鈴木理事長は「鈴木外科病院」の三代目にあたられるそうですね。開業はいつ頃のことなのですか?
鈴木 1923年に祖父が当院を開業し、代々、医療に携わってきました。私は祖父や父が医師としての仕事に誇りを持って日々患者様に向き合う姿を見て育ったんです。そうした環境が私を医療の道へと導いたと申しますか、洗脳されたのでしょう(笑)。大学卒業後は大学病院にて外科の医局に入り、以来、消化器外科を専門としてまいりました。そちらで10年間の経験を積んだ後、当院に戻ってきたんです。
布川 こちらが理想とされている医療のスタイルは?
鈴木 当院の位置づけは家庭医──かかりつけ医が基本で、私の専門が外科ということから、プライマリーケア、そして外科診療もできるかかりつけ医である点が当院の特長です。外科診療についてはできる限り患者様を受け入れ、必要であれば他院の医師と連携を図りながら最善の治療を提供できるよう努めています。
布川 その他、整形外科も診療科目に掲げていらっしゃるそうですね。
鈴木 はい。若い世代の方は主に一般外傷の治療に、また高齢者の方も多くお見えになります。私は各都道府県に設置されている介護保険審査会にも所属しており、高齢者施設の嘱託医としても活動しているんです。介護保険の審査については、その基準の見直しも今後必要になるでしょう。この地域は高齢の方が多く、ご高齢の方への配慮や対応は欠かせませんし、介護の在り方について日々考えずにはいられません。
布川 ところで最近は、医療訴訟が増えたため外科という分野は大変だと聞いたことがあります。いかがですか。
鈴木 大学で外科を選ぶと、外科医療における訴訟リスクについて習うため、外科医はある程度のリスクを承知しています。しかし私自身、現在の医療訴訟には疑問がありまして。医師は誰しも、患者様を助けたい一心で治療に尽力しています。もちろん、予期せず患者様が亡くなられ、病院側に過失があった場合、責任を負うのは当然のことです。しかし、現在の日本の医療訴訟は、行き過ぎている感があります。医療事故は刑事事件には馴染まず、日本の医療訴訟は先進国の中でも珍しいと言われています。そういった制度や状況を変えていく努力は今後、医師会としても進めていくことになるでしょう。
布川 医療が刑事事件に発展する確率が高い分野ほど、若手医師が減少していると聞きます。
鈴木 外科や産婦人科など、不測の事態が発生しやすい分野の医師は、私も含めて常に細心の注意を払いながら、日々の診療にあたっています。生半可な覚悟ではできないリスクの伴う仕事ですが、それだけに私は大きなやり甲斐と誇りを持って医師という仕事にあたっているんです。ところが、医療事故の訴訟問題が高まるほどに、外科や産婦人科が若手医師から敬遠されてしまうと懸念を抱いています。このままではいけない──リスクの高い診療科を志す医師が増えてくれると願いたいですね。
布川 私事で恐縮ですが、実は私の子どもは先天性疾患を持って生まれ、1歳で大きな手術を受けました。先生を信じるしか、あの時の私たちにはできませんでした。的確なアドバイスと情報を提供して下さり、手術を避けたいと考えてしまう私たちは背中を押されて、全てをお任せしようと思えたんです。
鈴木 布川さんがおっしゃるように、医師として常に的確な診療を心がけていれば、患者様との信頼関係は確立できると私は考えています。医療技術は日々進歩しており、医師として患者様に最良の医療を提供するため、日々の勉強は欠かせません。私は大学病院で外科の兼任講師も務めており、週に一度はそちらで診療を行っています。大学で最新の医療に触れたり情報交換をしたり、若手医師から刺激をもらい、より良い地域医療の提供を目指したいですね。
布川 そうした理事長の言葉は、この地域のみなさんにとって、きっと心強いと思いますよ。
鈴木 地域に根ざした医療の追求と提供は、当院が祖父の代から目指してきたものです。みなさんにとって、なくてはならない存在でいられれば幸いです。
布川 これからもそのお気持ちを持って、地域医療に貢献してください。 |