吉沢 まずは『群類畜産』さんのこれまでの沿革からお聞かせください。
鈴木 当社は、先代である父が創業しました。創業は1978年で、養豚業者としては比較的若い方ですね。2006年、先代の他界を受けて私が二代目を引き継ぎました。
吉沢 こちらでは、「田原ポーク」を生産されているとか。
鈴木 ええ。「田原ポーク」は餌、水、飼育方法にこだわり、おいしさと安全を追求しています。まず一番の特徴は、地下55メートルからくみ上げた良質な水をさらに浄水器で活性化した水「π(パイ)ウォーター」で育てていること。また、とうもろこしを加熱、圧縮、粉砕するなど、豚の消化吸収を考えたオリジナルブレンドの餌を採用しています。温暖な渥美半島で健康に育っているため、おいしさも格別なんです。
吉沢 餌や水によって味は変わってくるものなのですか。
鈴木 肉の甘みが大きく異なってきますね。また、ドリップが出にくくなり、かつ日持ちもするようになるのです。食感もやわらかく、コクがあって栄養のバランスもとれているんですよ。
吉沢 独自の飼育方法を確立されているようですが、生き物が相手であるだけに、運営を継続していくのは大変なのではありませんか。
鈴木 そうですね。豚はとても繊細な生き物ですから、ちょっとしたことで病気になってしまいがち。ですから、豚にストレスを与えないよう、飼育には万全の体制をとっています。舎内の温度、湿度、換気はコンピューターで管理しており、常に適温に保っているんです。また、病原菌の発生を防止するため、休息舎の地下に活性炭を埋設。舎に入る前後は必ず殺菌消毒を心掛けています。いつも清潔で、快適な環境を……そして何よりも愛情を注いで育てています!
吉沢 生産者の気持ちがこもっているからこそ、安全とおいしさが実現できているのですね。しかし、それだけの環境を整えるには、相当の設備投資が必要だったのでは?
鈴木 確かに、最初は経済的負担が大きかったです。しかし、将来性を考えると、効率的な生産につながるという確信がありました。それに、安全とおいしさに対するこだわりには、一切妥協する気はありませんでしたから。お陰様で「田原ポーク」のブランドは徐々に浸透し、ソーセージやベーコン、ロースハムなどの加工商品の人気も高まっています。
吉沢 現在、とうもろこしの価格が世界的に急騰していますが、その影響は?
鈴木 とうもろこしを飼料として使用している養豚業界は、非常に厳しい状況にあります。しかし、そうした中だからこそ、「田原ポーク」としてのこだわりを貫くことが生き残りのカギになる──。品質・鮮度の良い素材で育てているからこそ実現した「田原ポーク」は、どんな状況になろうとも、その味が変化することはありません。
吉沢 豚肉はビタミンも豊富でヘルシーな食材として注目されていますね。
鈴木 食品としての注目も高まっておりますし、輸入食品の問題が明るみに出てから、国産ブランドも見直されるようになりました。お陰様で需要に対して供給が間に合わない状況です。
吉沢 スタッフは何名?
鈴木 妻の文代を含め、6人体制で業務に当たっています。
吉沢 6人で農場を経営するのは大変なのではありませんか。
鈴木 スタッフとの連携は抜群に良く、意思疎通もできているため、少人数でも運営していける体制を実現しています。
鈴木(文) 長男の雄大は大学で経済学を学んでおり、いずれ事業を手伝うと言ってくれているんです。
吉沢 それは頼もしい。これまでの実績に経済の専門性が加わることで、事業の可能性が広がっていきそうですね。早くからご子息に後継の話を提案されていたのですか。
鈴木 いいえ。むしろ、自由な道を歩んでほしいと考えていました。私達が強制しなかった分、彼は自分なりに考えてくれたようで、自発的に家業を手伝うと言ってくれたんです。ありがたいことですね。実は、私は子どものころ養豚業について「臭い」「汚い」という負のイメージを持っていたんですよ。しかし、父が安全でおいしい肉を生産することに情熱を注ぐ姿を見て、この仕事に魅力を感じるように。もちろん、今ではこの仕事に誇りを持っています。そして、私が父から影響を受けたように、若い世代に養豚の魅力を伝えるのは、この仕事に従事している私達の役目だと認識しています。研究を重ねて養豚の可能性を広げ、若い世代がやり甲斐を見いだせる業界を築いていきたいです。
吉沢 私も応援しています。 |