布川 『糀屋』さんは、随分長い歴史をお持ちの企業だと伺いました。
河村 当社の歴史は文化年間─江戸時代からと、約200年に及びます。もともと醤油・味噌の醸造元として創業した当社は、「本醸造 濃口醤油」「うすくち醤油 淡雪」をはじめ、各種「たまり醤油」、「伊勢味噌」など、調味料醸造に懸けてきました。私自身は企業に勤めた後に当社に入社。「200年の暖簾を引き継ぐのだ」という気概を胸に歩み、8代目に就任した次第です。
布川 「老舗」として長きにわたり歩んでこられたのですね。このあたりのお醤油というと、どのような特徴があるのでしょう?
河村 関東などと比べると「濃い」ですね。東海三県の食文化の発展には、「たまり文化」の存在があります。トロっとした濃厚な旨味と独特な香りが特徴で、主に中部地方で製造されていたたまり醤油は、今でこそ普通の醤油と区別されていますが、ここ三重では区別がなされていませんでした。それ故に深い味わいが、この地方の醤油として馴染みを深めていったのです。
布川 地域で生まれ育った調味料なのですね。
河村 ええ。たまり醤油は「味噌づくり」から生まれたものでして。味噌製造の際に桶の底にたまった汁が「たまり」。だから、大豆の旨味がぎゅっと凝縮された味になる─。郷土料理である「伊勢うどん」やうなぎ料理のタレのベースになっており、見た目ほど辛くなく、やさしい味が特徴です。
布川 伝統の味を長年守ってこられたと。では、企業成長の秘訣は何だとお考えですか。
河村 試行錯誤を繰り返してようやく完成した「独自の製法」を守ってきたことはもちろん、時代を見据えた展開も成長の理由だと考えます。まず、父の代からは業務用食品の卸業務を手掛けるようになりました。新たな道を開拓することで、当時先細りにあった「醸造」をも牽引してきたのです。父の、先を見据える「目」に感化され、私自身も「時代」を意識するようになりました。
布川 8代目に就任されて、新たな取り組みを?
河村 ええ。時代のニーズを感じ、「飲食店経営」に乗り出すことを決意したのです。飲食店経営のノウハウを持ち合わせていなかったため、まずはフランチャイジーとして焼肉フランチャイズ大手『炭火焼肉 牛角』に加盟しました。経営は軌道に乗り、伊勢楠部店、鈴鹿サーキット通り店と現在では2店舗を構えるに至っています。飲食事業のさらなる活性化を視野に、次に目標に据えたのが「オリジナル店舗」のオープンでした。
布川 時流に乗った勢いある展開が目を引きますね。それで、どのような店舗を?
河村 まず、当社が昔から構えていた「蔵」に注目。古民家再生など“伝統を現代に活かす”動きが数年前からクローズアップされていたので「蔵で食すパスタ店を」と、伊勢市駅近くに『くらでパスタ』をオープンしました。パスタのソースには、当社自慢の醤油や味噌をとり入れ、「ツナ醤油パスタ」や「肉味噌パスタ」などの和風パスタをお出ししています。
布川 『糀屋』さんこだわりの味がパスタで堪能できるとなると、普通のイタリアンとはひと味もふた味も違います。また、「蔵」というのが斬新ですよね。
河村 お陰様でオープン以来、たくさんのお客様に来ていただいていましてね。路地にありながら、口コミを中心に人気が高まっています。
布川 伝統を引き継いできた社長の「目」に狂いはなかったのですね。
河村 私自身、「会社を、暖簾を守らなければ」という使命感だけだった時期を経て、現在では「伝統をより良い形で残す」ポジティブな経営スタイルを確立しました。『くらでパスタ』の店舗展開により、味噌や醤油の良さをより多くの人に知ってもらい、『糀屋』の文化と歴史を伝えることができる……。長く培ってきたもの─古き伝統の良さを伝えるべく、伊勢だけでなく全国各地に出店し、最終的には世界にも進出していきたいですね。
布川 これからが楽しみですね! |